「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SONG

E.YAZAWAの世界を確立する究極のバラードを矢沢永吉に書いた西岡恭蔵③~「A DAY」

2019.08.25

Pocket
LINEで送る

写真・井出情児


セカンド・アルバムのタイトル曲になった「A DAY」は、矢沢永吉のなかでも屈指のバラードであるが、この静謐な楽曲の完成度は尋常ではない。

矢沢はセルフ・プロデュースによるソロの2枚目で、早くもキャロル時代に終わりを告げて、「E.YAZAWA」の世界を完全に確立することに成功した。

アレンジも歌唱も素晴らしい名曲になった「A DAY」だが、作詞した西岡の果たした役割もまた大きかった。
生きている人間の呼吸やぬくもり、そして胸に去来する思いや願いが、きわめて近い距離感で伝わってくる歌詞を矢沢が歌うことで、音楽の世界がさらに深みを増していく。

これは永遠や普遍をテーマにした究極のラブソングで、しかも矢沢にしか唄えそうにない難曲だ。

「A DAY」
 作詞:西岡恭蔵 作曲:矢沢永吉

 くらい闇のはてに 青い月の光
 浮かぶ君に 出逢うまで 永い時が過ぎた

 君の頬につたう 過ぎた日の涙
 でも もうこれっきり すべて さよならさ

 Oh my love 二人きり 見つめ合う
 Oh my sweet いつまでも 月に抱かれて



自然に恵まれた三重県志摩半島に生まれ育った西岡恭蔵が、最初に出会った都会は大学があった大阪だった。
そして音楽を通じて知った仲間たちと活動をしていくうちに、当時の主流だったメッセージ性の強い関西フォークのスタイルではなく、アメリカ大陸やカリブ海に浮かぶ島から生まれた異文化が混じり合っている豊穣な歌や音楽に惹かれていった。

1975年に発表したソロ・アルバムの3作目は、アメリカのカントリーやデキシーランド・ジャズなどの伝統的音楽への接近にとどまらず、アメリカ南部までルーツをさかのぼっていった細野晴臣の楽曲『ろっかばいまいべいびい』がアルバム・タイトルになった。

鈴木茂とハックルバックのドラマーだった林敏明はバンドが解散した後に、西岡恭蔵とともに「カリブの嵐」というバンドを組んで活動しているが、「恭蔵さんはシンプルにそういう音楽が好きなんだろうなぁ」と思ったと、当時を振り返っている。

『ろっかばいまいべいびい』はハックルバックをバックにしたファンキーなサウンドを中心としたA面と、細野晴臣の協力を得てアコースティックでレイドバックしたサウンドのB面という構成になっていた。



キャロル解散後はCBSソニーに移籍することを決めていた矢沢永吉と、秋にソロ・アルバムを発売する準備を進めていたディレクターの高久光雄が、作詞家としての西岡恭蔵に注目したのは、おそらくそのタイミングで発売されたアルバムを聴いたからだろう。
そのなかに入っていた「踊り子ルイーズ」や「ファンキー・ドール」は、そのまま『アイ・ラブ・ユー、OK』の世界に通じるところがあった。

そうした時間的な流れを確認した上で「A DAY」を聴いてみると、「ろっかばいまいべいびい」のアンサー・ソングの匂いが、どこかしらに感じられる。

「ろっかばいまいべいびい」
 作詞・作曲:細野晴臣

 すてきな君 そのくちびる ろっかばいまいべいびい
 おかしな唄、このメロディ ろっかばいまいべいびい
 泣かないでさ これからは ダイナ、君といつも一緒だよ

 晴れた日はとても青い空 花は咲き乱れ
 そよ風に鳥はさえずり 夜は青い月を見つめ


「♫ 二人きり 見つめ合う」距離は近すぎるほど近く、これからは「♫ いつも一緒だよ」という幸福感に満ちている…。
しかも「♫ いつまでも 月に抱かれて」いる二人は、「♫ 夜は青い月を見つめ」ていたのだ…。

西岡は歌詞を書く時に、どうすれば矢沢だけが持っているオーラや、男の色気が引き出せるのかを意識していたという。
そして「ろっかばいまいべいびい」のテーマだった「泣かないでさ これからは ダイナ、君といつも一緒だよ」を受けて、それを月の光と組み合わせることによって「A DAY」に結実させていく。

青い月の光に照らされているような穏やかな幸福感、もう一緒だから泣かなくてもいいという安心感、それらが両立していながらも叙情的で、しかもクールな名曲がこのようにして誕生したのだった。




(注)本コラムは2018年11月30日に公開されました。

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SONG]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ