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マイルス・デイヴィス27歳〜麻薬中毒からの脱出、その決意と“薬抜き”の苦しみと喜び

2018.06.09

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「麻薬との戦いが終わった日、俺は12日間籠った農場から歩いて外に出て、オヤジのところまで行ったんだ。そこで彼と目が合った時、お互い笑顔と涙で顔を歪ませながら抱き合って泣いたよ。」


マイルス・デイヴィスの音楽キャリアは、13歳の誕生日に父親からプレゼントしてもらったトランペットを手にした時から始まった。
高校在学中の15歳のときにユニオンカード(アメリカ音楽家連盟の会員証)を手に入れ、セントルイスのクラブに出演するようになる。
彼が1歳の頃から暮している当時のセントルイスには、アフリカ系アメリカ人の労働者の居住区が多く、ジャズライブが定期的に行われていた。
マイルスは多感な時期に多くのジャズプレイヤーを観て音楽を学んでいたという。
それは彼が18歳を迎えた年の出来事だった。
ある日、セントルイスにビリー・エクスタイン楽団が公演でやって来た。
マイルスは、たまたま病気で休んだトラッペッターの代役を急遽務めることとなり、当時すでに活躍していたチャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーとの共演を果たした。
その時の様子をマイルスはこんな風に語っている。

「衝撃だったよ!バードとディズの演奏に耳を傾けながら合わせようとしたけど、何が何だかさっぱりわからなかった!」


当時、高校生だった彼はプロのバンドからいくつもの誘いを受けるが…卒業までは両親の許しが得られなかった。
高校卒業後、彼はニューヨークのジュリアード音楽院に入学する。
学校に通いながら、ジャズの中心街マンハッタン52丁目や、ビバップ誕生の地として知られるハーレムのジャズクラブ『ミントンズ』などで様々なジャズメンと過ごす。
1945年、 ハービー・フィールズのバンドで初めてレコーディングに参加。
そして二十歳を迎えた年、彼は念願かなってチャーリー・パーカーのバンドで演奏するようになる。
約2年間、憧れのチャーリーのもとで腕を磨くも…当時、多くのジャズメンたちが手を染めていた麻薬が彼の心と身体を蝕んでゆく。
1948年、チャーリーのバンドを脱退した後、深刻なヘロイン中毒に陥る。
その後、パリのジャズフェスティバルに出演したり、創設されたばかりのジャズレーベル“プレスティッジ”と契約を交わしたり、ソニー・ロリンズのアルバムに参加したり、実力派ジャズメンとして活躍の場を広げてゆくも…彼とヘロインの関係は、切っても切れない親密なものとなっていた。
そんな中、彼は遂にブルーノートの協力によって、初のリーダーアルバムを作るチャンスを掴む。
そして…1953年、27歳になった彼は麻薬中毒からの脱出を決意する。

「ある日、すべてが終わったんだ。終わった!本当に終わったんだ!純粋な気分だった。」



彼は父の農場に12日間籠って“薬抜き”をした時の様子を鮮明に憶えているという。

「コールドターキー(禁断症状)は想像を超えるものだった。悪性のインフルエンザをこじらせたみたいに体中が汗でぐっしょりになり、涙も鼻水も止まらず…何かを口に入れてもすぐに吐き出してしまうんだ。」


ジャズ評論家のレナード・フェザーは、当時のマイルスに関してこんな風に語っている。

「ブルーノートに残されたセッションにおいて、1952年〜1953年に録音したものは彼が麻薬に浸っていた頃の演奏で、どことなく指の動きが鈍かったり、ソロの構成にまとまりがないように感じられました。しかし、麻薬と手を切った直後に残された1954年の録音は、ほとんど完璧な内容と言っていいでしょう。当時私はブルーノートの顧問のような立場だった。その時のスタジオにもいたのですが、すべてを録り終えた直後に彼と抱き合ったことを憶えています。」


1954年、27歳で麻薬地獄から脱出したマイルスはニューヨークに戻る。
この頃、彼は二人のジャズピアニストと出会う。
一人は“1945年以降のジャズの発展における重要性ではチャーリー・パーカーに次ぐ男”と言われた才人アーマッド・ジャマル。
もう一人は、後に“マイルスの知恵袋”と呼ばれることとなるギル・エヴァンス。
麻薬中毒から脱した彼は、次なる高みを目指して彼らから多くを学ぶこととなる。
さらには、定期的にボクシングジムにも通い始め、モハメド・アリの後継者として絶大な人気を誇ったボクサー、シュガー・レイレナードとも親交を重ねてゆく……


<参考文献『マイルス・デイヴィスの真実』小川隆夫(著)/平凡社>








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