『オースティン・パワーズ』(Austin Powers:International Man of Mystery/1997)
1996年4月の昼下がりのこと。ジョン・ベルーシやエディ・マーフィなど数々の個性的なコメディアンを生み出した『サタデー・ナイト・ライヴ』出身で、映画『ウェインズ・ワールド』の大ヒットで世界的スターの仲間入りを果たしたマイク・マイヤーズは、ホッケーの練習に向かうために車を運転しながらラジオを聴いていた。
流れてきたのは1967年のヒット曲「The Look of Love」。バート・バカラック作曲、ハル・デヴィッド作詞、ダスティー・スプリングフィールドが最初に歌ったポップス・スタンダード。
1963年生まれのマイヤーズはそれから記憶の数々を楽しみながら、自分にとって大切なものが次々と蘇ってくる経験をしたという。そしてこの瞬間を映像化しようと思いつき製作したのが、自ら主演(1人2役)・脚本を担当した『オースティン・パワーズ』(Austin Powers:International Man of Mystery/1997)だった。
『007』シリーズや『欲望』などの英国映画へのオマージュが溢れる中、007のパロディ『カジノ・ロワイヤル』から多大な影響を受けた作品が生まれた。スウィンギング・ロンドン時代に売れっ子カメラマンでありながら、実はスパイという裏の顔を持つオースティン・パワーズに扮したマイク・マイヤーズのコミカルな言動や仕草に、あの名優ピーター・セラーズや初期ウディ・アレンを思い浮かべる人も多いだろう。
クインシー・ジョーンズの「Soul Bossa Nova」をバックに、初期ビートルズのようにカーナビー・ストリートを追っかけの女の子たちから逃げ回る映画のオープニングから、お馬鹿ノリのコメディながらも丁寧にディティールに拘った世界観を構築しようとする情熱を感じずにはいられない。だからこそ大ヒットした。
ボンド・ガールに対抗して知的でセクシーな美女パートナーも登場し、シリーズ1作目では彼女のために脚本を想定したと言われるエリザベス・ハーレーが好演(2作目「オースティン・パワーズ・デラックス」(1999)はヘザー・グラハム、3作目「オースティン・パワーズ ゴールドメンバー」(2002)はビヨンセ)。
スターたちのカメオ出演もこのシリーズの見どころの一つで、1作目ではキャリー・フィッシャー、ロブ・ロウ、クリスチャン・スレイター、アンディ・ウォーホル(これはさすがにそっくりさん)。2作目ではウィリー・ネルソンやエルヴィス・コステロ、3作目ではスティーヴン・スピルバーグ、トム・クルーズ、グウィネス・パルトロー、ジョン・トラボルタ、ケビン・スペイシー、ダニー・デヴィート、クインシー・ジョーンズ、オジー&シャロン・オズボーン夫妻、ブリトニー・スピアーズなど豪華なラインナップで楽しませてくれる。
また、ペニス増大器に関するベストセラー作家でもあるオースティン・パワーズは、ミング・ティというバンドを組んで「BBC」というヒット曲を放つミュージシャンでもある。こらちのメンバーにはバングルズのスザンナ・ホフスやマシュー・スウィートの顔ぶれが。
サントラも1作目では60年代からナンシー・シナトラ「These Boots Are Made for Walkin’」、ストロベリー・アラーム・クロック「Incense and Peppermints」、セルジオ・メンデス&ブラジル’66「Mas Que Nada」、90年代からはディヴァイナルズ「I Touch Myself」、カーディガンズ「Carnival」といったヒット曲が並び、カメオ出演したバート・バカラックの「What the World Needs Now Is Love」(マイク・マイヤーズはおそらくこのシーンを一番撮りたかったに違いない)も収録されている。
オースティン・パワーズの宿敵ドクター・イーブルは、もちろんマイク・マイヤーズが演じている。シリーズが進むたびに、ビクルスワース君と名付けられた猫を可愛がるこちらの方が人気キャラクターになってしまうほど、強烈なギャグを保持する。中でも世界征服へ向けて国連へ要求する額「1 million dollars」(安っ!)ネタはこの映画の名物だ(以下動画で)。
パワーズもイーブルもお互いに1967年に冷凍冬眠して1997年に解凍蘇生されたので、時代の流れがつかめずに大ボケ合戦を繰り返し、周囲からツッコミを入れられるのが笑いのポイント。それでは“シャカデリック”な世界へ!!
予告編
「Soul Bossa Nova」が流れるオープニングシーン
ドクター・イーブルの名物「1 million dollars」シーン
「The Look of Love」は『カジノ・ロワイヤル』の挿入歌でもある
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*日本公開時チラシ
*参考/『オースティン・パワーズ』パンフレット
*このコラムは2016年7月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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