ジャズ史を語る上で外すことのできない男、セロニアス・モンク。
奇矯な言動やファッションで人を惑わし、深い精神の病を患っていた男だったが、何より独創的だったのは、他ならぬそのピアノ演奏だった。
1940〜1960年代まで黄金期を迎えた“モダンジャズの時代”において、独特のタイム感とコード感、そして休符の目立つ旋律などで、新風を巻き起こした人物である。
まだ20代前半だった頃、1940年代初頭に成立したジャズの演奏スタイル“ビ・バップ”の聖地であったライブハウス『ミントンズ・プレイハウス』のピアニストに雇われ、ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカーらと共演するようになる。
若い頃から多くのミュージシャンから崇拝されていたが、その高い音楽性が世界に知られることとなったのは、30代後半(1950年代)になってからのことだった。
モンクの才能は、世間からはまだあまり注目はされていなかったものの、実際には1940年代から開花していたという。
当時のモンクの演奏スタイルは、“真のヴァーチュオーゾ(優れた演奏技巧上の名手、巨匠をという意味)”と呼ばれた伝説のジャズピアニスト、アート・テイタムから影響を受けた「ハードスウィンギング」と呼ばれる類いのものだった。
この頃、アメリカの音楽業界は過渡期を迎えていた。
それまで、生演奏による音楽番組を積極的に放送していたラジオ局が、レコーディング技術の飛躍的な向上によって、「わざわざ苦労して生の音楽を放送する必要はなし」となり、モンクも『ミントンズ・プレイハウス』以外の場所で仕事をする機会をほとんどなくすこととなる。
時代の流れに歯止めをかけようと、ミュージシャン達は録音を拒否する“グレートバン”という運動(ストライキ)を行なったが、それによって彼らは収入源を失ってしまった。
そんな苦しい状況の中、モンクをレギュラーバンドのメンバーとして雇ってくれたのが、“ジャズサックスの父”と呼ばれた、大ベテランのコールマン・ホーキンスだった。
モンクは26歳(1944年)の頃に、ソロ名義としては初となるスタジオ録音を、コールマン・ホーキンス・カルテットと共に行っている。
27歳を迎えたモンクは、1945年1月21日にビ・バップのジャズドラマーの先駆者の一人、マックス・ローチと共にコンサートを開催した。ペンシルベニア州フィラデルフィアで行なわれたそのステージは、戦中真っ只中にも関わらず大いに盛り上がった。
ある夜の終演後、ミュージシャンたちが楽器をケースに仕舞っている時に、警官たちがクラブになだれ込んできてモンクの行方を捜した。モンクは証明書(アメリカの劇場・飲食店での営業演奏を許可するキャバレーカード)の提示を拒んだので、その場で拘束されてしまう。
その様子を見ていた一人のファンが会場の戸口を塞いでこう叫んだ。
「よせ!」
男は警官たちに向かって食いかかった。
「あんたたちは間違ったことをしている!あんたたちは世界で一番偉大なピアニストを虐待しているんだぞ!」
次の瞬間、その男の頭に勢いよく警棒が振り降ろされた。額から流血しながらも警官を睨みつけていた青年の名前は、バド・パウエル。後に“ビバップスタイルの第一人者”“ジャズ史上もっとも偉大なピアニスト”と賞される男だ。
当時のモンクにとってパウエルは一番の友人であり、パウエルにとってモンクは師匠のような存在だった。警官達に手首を掴まれたまま二人はその場から連行され、そのまま留置所に放り込まれた。
モンクにかけられていた容疑は麻薬の不法所持だった。しかし彼に麻薬癖はなく、後の調べでは不当逮捕・冤罪だったという説もある。この事件によってモンクはキャバレーカードを没収されてしまう。
この不当な逮捕による留置場収容から釈放された直後、パウエルは頭痛を訴え始めた。病院で診察を受け、それからの3ヶ月間を病室のベッドで過ごすことになった。そこで彼は様々な精神活性薬物を投与され、ショック療法も受けた。パウエルの芸術家としてのキャリアはまだ始まったばかりだったが、これを境に終生、精神的な疾患に悩まされることになったのだ。
「もしパウエルがそこに介入してくれなかったら、自分だって同じような目に遭わされていただろう」
モンクはこの不運に見舞われた愛弟子のために、「イン・ウォークト・バド」「52番街のテーマ」「ブロードウェイのテーマ」という曲を書いた。
<参考文献『セロニアス・モンクのいた風景』編者・訳者/村上春樹(新潮社)>
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執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

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