現在はローリング・ストーンズのメンバーになっているロン・ウッドが、オーディションも兼ねていたレコーディングに参加したアルバムが、1976年4月に発売された『ブラック&ブルー』だ。
そのなかに収められた「メモリー・モーテル」は7分8秒もある長い曲だが、ストーンズにしか生み出すことができないタイプの楽曲という意味で、これ以上はないバラードの傑作である。しかし、この作品はアルバムが世に出た1976年から20年近くにわたって、なぜか「知る人ぞ知る」という扱いにとどまっていた。
それはイギリスのロック・ジャーナリストたちから「『BLACK & BLUE』はまるでオールディーズだ」という批判を受けて、マスコミから低い評価しか得られなかったことも、理由のひとつにあげられるだろう。
当時のイギリスはパンク・ムーブメントが始まる前夜で、すでに名を遂げた大物アーティストの作品は、「世の中の流れから取り残された過去のサウンド」という暗黙の批判にさらされつつあった。
ア
メリカでも影響力の強いローリング・ストーン誌で、こちらは内容面でかなり厳しいレビューになった。
イギリスの音楽週刊誌「サウンズ」の記者だったジョン・イングハイムは、アルバムのリリース後に行われた「Tour of Europe ’76」に同行を許されて、1976年4月28日に西ドイツのフランクフルト公演を観た後でキースの取材を行っている。部屋でコカインとマリファナを吸いながら取材に応じていたキースに向かって、ジャンは思い切ってこんな質問を投げかけたという。
「ロンドンにセックス・ピストルズというバンドがいて、ストーンズはもう古い、さっさと引退して消えろって言っているが」
はじめは退屈そうに聞いていたキースだが、しばらくしてがばと身を起こしたとジャンは記している。
両眼はランランと輝き、内部では火山の大噴火が起こっている。「勝手に言わせておけ!」とキースは手に持ったジョイントを私に突きつけながらわめいた。「俺たちはローリング・ストーンズだ。誰の指図も受けない。やめるのは自分たちでそう決めた時だけだ!」。気持ちが収まるとキースは再び王座に収まり、手に持っているジョイントに気付くと、それを私に渡した。

淡々と弾き語り風にスタートしたミックのスローバラードは、かなりクールなタッチでエモーショナルではない。
可愛いいハンナは桃みたいな娘だった
彼女の瞳はハシバミ色、鼻は少しカーブしていた
オレたちは想い出のモーテルで、孤独な夜を過ごした
そのモーテルは海の上に建ってる
星がきらめき、オレの息をかき消す
水ぎわに降りると、彼女の髪は波しぶきでびしょ濡れになった
だが、サビに入ってビリー・プレストンのストリング・シンセサイザーが鳴り始めると、そこからミックのヴォーカルが高揚してくる。そしてワンコーラスが終わった後から、そのまま短いブリッジ時をはさんで、キースのヴォーカル・パートに移る。
彼女は自分の心をもっている
そして上手く使っている
なかなかいない娘だった
彼女は頭がいい
彼女は自分の心をもっている
それをすごく上手に使いこなす
キースの歌声によって全体に広がりが感じられて、重層的な展開が加わった後になると、一気にミックのヴォーカルもソウルフルなテイストへと変わっていく。バンドの演奏は全体として緻密なまま、そこから熱量だけが増していくところが、第2の聴きどころになる。
アルバムに付属しているチャンネル・シートには、アコースティック・ギターがウェイン・パーキンス、エレキギターはハーヴェイ・マンデル、ロニー・ウッドはコーラスの一人として記されている。ハーヴェイのカウンターメロディーやリード・ギターは、弾きすぎない抑えた感じなので品の良さがある。
そしてこの長い曲のなかで特に印象に残るのは、ミックのヴォーカルにも匹敵する熱い演奏を聴かせる、ドラムのチャーリー・ワッツだった。普段はなかなか目立つことがないドラマーが、「メモリー・モーテル」では珍しくタムやシンバルを駆使して、思いっきり歌っているのだ。これが全体を通しての聴きどころだ。
ところでストーンズなのに、いつものストーンズらしくないのは、ミック・テイラーが1974年12月に脱退したことで、後任のギタリストとしてロニー・ウッドとウェイン・パーキンスが、「本当に五分五分」という感じで一緒に活動していた時期のレコーディングだったからだろう。そして本セッション終了後、ロニーが正式にレギュラー・メンバーに迎えられている。
なお「メモリー・モーテル」がワールド・ツアーで取り上げられたのは、発表から20年目の「ヴードゥー・ラウンジ・ツアー」からだ。そして1998年にはデイヴ・マシューズ・バンドがオープニング・アクトを務めたとき、デイブ・マシューズが本番に飛び入りで参加したライブの動画などによって、傑作であることが広く伝わり始めたのだった。

ブラック・アンド・ブルー/ザ・ローリング・ストーンズ
ニューアルバム『フォーリン・タングス』
●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

- TAPthePOPアンソロジー『音楽愛 ONGAKU LOVE』
TAP the POPが初書籍を出版しました!
「真の音楽」だけが持つ“繋がり”や“物語”とは?
この一冊があれば、きっと誰かに話したくなる
今までに配信された約4,000本のコラムから、140本を厳選したアンソロジー。462ページ。
「音楽のチカラで前進したい」「大切な人に共有したい」「あの頃の自分を取り戻したい」「音楽をもっと探究、学びたい」……音楽を愛する人のための心の一冊となるべく、この本を作りました。
▼Amazonで絶賛発売中!!
『音楽愛 ONGAKU LOVE』の詳細・購入はこちらから








