東京オリンピック開催に合わせて1964年9月に完成した日本武道館が、初めてコンサートに使われたのは1966年6月30日のことで、それは3日間で5回行われたビートルズの日本公演だった。
観客席からは前座での出演を辞退したスパイダースと、大阪を拠点にプロを目指していたファニーズ(その年の11月にザ・タイガースに改名)が、本物の動くビートルズを真剣な眼差しで見つめていた。
同じ年の12月3日、出身地の京都や関西の少女たちの期待を背負って上京したファニーズは、ザ・タイガースとしてホームグラウンドとなるジャズ喫茶「新宿ACB(アシベ)」のステージに登場した。
彼らはその月だけでも7回、新宿ACBでライブを行ったが、東京の空気に馴れるにしたがって観客も口コミで増えていった。
1967年2月5日に「僕のマリー」でデビューを飾ったザ・タイガースは、2枚目のシーサイド・バウンド(5月5日)と3枚目の「モナリザの微笑」(8月15日)が大ヒットし、そこから一気に人気が爆発した。
そもそもロックンロールにはいかがわしさや危うさがつきもので、不良性感度が高いことが保守的な大人に眉をひそめさせる原因だった。
だがタイガースの初期の歌は、大正童謡の流れをくむピュアでメルヘン的な世界観だったので、そうした猥雑さがさほど見えてこなかった。
それまでのレコード購買者の年齢を大きく下げて、小中学生にまで支持されアイドル的な人気が出たのは、そんなところにも理由があった。
しかしひとたびステージに立つと、彼らはロックンロールやR&Bの外国曲をメインにした、激しいステージ・パフォーマンスを展開した。外国のロック・バンドのスタイルを目指していた、ファニーズ時代の感覚を捨て去ったわけではなかった。
タイガースが出演する時の新宿ACBは大変なことになった。ステージが終わると椅子、テーブルは倒れ、車道まで溢れる百数十人のファンの喧騒、熱狂の渦のなか、交番の警官の誘導によってメンバーがやっと店を抜け出るなど、新宿ACBの歴史で初めての出来事だった。ジュリー、トッポ、ピー、サリー、タローと絶叫するファンのタイガース現象は、GSの世界にアイドル誕生を告げていた。これが新たな流れの契機となった。「新宿ACB―60年代ジャズ喫茶のヒーローたち 」井上達彦著 寺内タケシ監修(講談社)
テレビやラジオを通して人気ものになったザ・タイガースは、ライブに行かないと本当の魅力には出会えないという、叩き上げのバンドとしてライブに臨んでいた。
商業主義の真ん中にいて輝いていながらも、ザ・タイガースがどこか他のバンドとは違う憂いや孤高な感じを漂わせていたのは、おそらくはそうした志向性のせいだったのかもしれない。
当然ながらライブに足を運んでくれたファンを大切にし、お互いのコミュニケーションや信頼感を重視していた。
1967年8月22日には大手町サンケイホールでは、初めてのリサイタルとなる「ザ・タイガース・ア・ゴー・ゴー」が開催された。
当時のサンケイホールというのは、ナット・キング・コールやサラ・ヴォーンなどの海外アーティストや、服部良一の還暦コンサート、丸山明宏のリサイタルが開催されていたホールで、クラシック以外では最も格式の高いポジションにあった。
そんな記念すべきライブがザ・タイガースのファースト・アルバム『THE TIGERS ON STAGE』として発売されたのだが、アルバムに収録された曲にはいささか驚かされる。
Side One
1. ダンス天国~ラ・ラ・ラ
2. タイガースのテーマ(モンキーズのテーマ)
3. ルビー・チューズデイ
4. レディ・ジェーン
5. タイム・イズ・オン・マイ・サイド
6. アズ・ティアーズ・ゴー・バイ
7. スキニー・ミニー
Side Two
1. 僕のマリー
2. シーサイド・バウンド
3. モナリザの微笑
4. ローリング・ストーンズ・メドレー
※エヴリバディ・ニーズ・サムバディ
※ペイン・イン・マイ・ハート
※アイム・オール・ライト
5.アイ・アンダスタンド
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全14曲中の半分、7曲がローリング・ストーンズのカヴァーだった。その他もR&Bやモンキーズ、ハーマンズ・ハーミッツのカヴァーなどがメインで、オリジナル曲は中盤にわずか3曲だけである。
バンドのオリジナル曲が間に合わなかったという事情もあったのだろうが、それにしてもこの選曲には明らかに当時のバンドの意向が反映されていたはずだ。
ちなみにローリング・ストーンズのデビュー・アルバムもやはりブルースやR&Bのカヴァー中心で、オリジナル曲は3曲だけだった。
ザ・タイガースのアーティスト写真とローリング・ストーンズのジャケット写真の相似にも、バンドが志向していた方向性が表れている。
1967年12月2日、武道館ではビートルズ以来となるコンサートが1年半ぶりに開催された。
その日のステージに立ったのは。ビートルズの公演を客席で観ていたザ・タイガースとスパイダース、そして前座で出演していたジャッキー吉川とブルーコメッツだった。
1年前にまだアマチュアだったザ・タイガースはGSブームの牽引者となり、すでに最も勢いと集客力があるバンドになっていた。
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