「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the DAY

マリア・カラスを偲んで①〜過食症、年の差婚、大富豪との恋、自殺未遂…波瀾万丈の歌人生〜

2020.09.16

Pocket
LINEで送る

1977年9月16日13時30分、パリの自宅の浴室で一人の女性歌手がこの世を去った。
家政婦によれば、彼女は正午頃に目を覚まして朝食をとり、ふらつく足取りで浴室へむかったという。

「今年はリュウマチはおきるのが早いわ…。」


彼女は数日前から左腕の痛みを家政婦に告げていた。
少しして…浴室からドスンという鈍い音がしたという。
家政婦がかけつけると、そこに彼女が倒れていた。
すぐに連絡を受けて到着した医師によって死亡が確認された。
死因は心臓発作。享年53。
しかし、その死因をめぐっては彼女の死亡直後から様々な疑惑が指摘されてきたが、真相は謎のままである。
遺体はパリの東部にあるペール・ラシェーズ墓地で荼毘にふされて埋葬された。
その一年半後の1979年6月3日、本人の遺言によって祖国ギリシャのエーゲ海に遺骨が散骨されたという。


──彼女の名はマリア・カラス。
エキゾティックな美貌と強靱な声、そして緊張感あふれる劇的な表現。
オペラ史上において、彼女ほど人気とカリスマ性を持つ人物は後にも先にもいないだろう。
オペラファンならば誰もがその名を知るマリア・マリブラン、エンリコ・カルーソー、ベニャミーノ・ジーリなど、歌唱の面ならば彼女に劣らぬ実力を持つ歌手はいる。
そんな中、彼女はなぜ別格扱いされるのか?
それは彼女の歌が声の美しさだけではない“ドラマ性”を持っていたからだという。
彼女は歌手であると同時に、その役に完全になりきることのできる“女優”だった。
その表現の豊かさとカリスマ性ゆえに、オペラファン達は彼女を「ディーヴァ・アッソールタ(« la diva assoluta » 絶対的歌姫)」と呼ぶのだ。
彼女の公演は、王族や大統領、ブリジッド・バルドー、カトリーヌ・ドヌーブといった名だたる女優までが集う“セレブたちの社交場”だったという。
しかし、そんな華やかな名声の裏側には、波瀾万丈な人生物語があったのだ。


──1923年12月2日、彼女はギリシャからニューヨークへ移住した両親の次女として生まれた。
男の子の誕生を望んでいた母エヴァンゲリアの愛情は希薄だったが、彼女に歌の才能を見出してからは音楽の英才教育に没頭する。
マリアを歌手にしてひと儲けする皮算用だったのだ。
しかし、内気だった彼女は母の英才教育によるストレスのため過食症となり激太りとなる。
自信を失いさらに暗く内向的な性格となっていく。
やがて父が事業に失敗すると母は迷わず離婚して、2人の娘を連れて故郷ギリシャへ帰国する。
1938年、15歳になった彼女は実年齢を偽って国立音楽院に入学する。
その後、アテネ音楽院でエルビーラ・デ・イダルゴに師事し、18歳を迎えた1941年にアテネ・オペラでプロデビューを果たす。
終戦直後の1945年、彼女は母から遠ざけられていた父親を尋ね、アメリカでキャリアを積むべく再び大西洋を渡る。
その後、イタリアなどにも活躍の場を広げながら20代はひたすら音楽の道に励んできた彼女。
結婚を迫られても、過食症により太った自分を卑屈にとらえていたとう。
そんなマリアの心を射止めたのは、ジョヴァンニ・バッティスタ・メネギーニだった。彼は彼女に一目惚れしアタックを繰り返し、彼女の愛人兼マネージャーとなったのだ。しかし、年の差はなんと28歳。
その後結婚するも 30代の女盛りだった美しい彼女にとって、60歳の夫は物足りなかった。
オペラ界のスターへの階段を着実に昇り始めた彼女は、母国ギリシャでの公演に母親を招待したところ、金をせびられ絶縁。
怒った母親はマリアの醜聞を世間に広め、マスコミから親の面倒をみない恩知らずの娘としてバッシングを受ける。




──それは彼女が37歳を迎えた頃の出来事だった。
大富豪アリストテレス・オナシスが、自身が所有する豪華客船の旅に彼女を招待する。体調不良やスキャンダルで疲労困ぱいしていたマリアはこれに応じる。
長い船旅は二人の関係を親密なものにするが、やがてマスコミの知るところとなり、彼女は夫を省みない不埒な女として非難を受けることに。
オナシスを心の底から愛した彼女は夫との離別を宣言。
その後、彼女はアメリカでオナシスが新しい恋人とデートという報道を耳にする。
お相手は暗殺されたアメリカ大統領ジョン・F・ケネディの元妻ジャックリーヌ・ケネディだという。
オナシスを信じ報道を否定する彼女の願いもむなしく、1968年にオナシスとジャックリーヌは結婚。
その頃、すでに46歳となっていた彼女はショックのあまり睡眠薬で自殺を図る。
未遂に終わったものの、彼女は心に大きな傷を抱えることとなる…。


■続きは「マリア・カラスを偲んで②〜最初で最後の映画出演、人生最後の恋、ラストステージは札幌…パリでの寂しい晩年」をお楽しみ下さい

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the DAY]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ