ヴィエナ・テンが日本にやってきて、鎌倉のカフェ・ゴーティの親密な空間で歌を聞かせてくれるというニュースは本当に嬉しい驚きだ。
ピアノを弾き語る女性シンガー・ソングライターはそれこそゴマンといるが、ヴィエナは真に独創的な作品を作って歌うアーティストのひとり。
デビュー当時はトーリ・エイモスやサラ・マクラクランを引き合いに出され、本人もその2人からの影響を認めていたが、僕はヴィエナが彼女たちと同じくらいの知名度を持っていてもおかしくない逸材と信じている。
彼女はスタンフォード大学時代に、MP3で自作曲を配信して評判を広めていったDIYアーティストの先駆者であり、02年にデビュー・アルバムを発表した。
僕が彼女を知ったのは、ゾーイ/ラウンダーと契約したおかげで日本盤が発売された3作目「ドリーミング・スルー・ザ・ノイズ」で、その繊細な音楽の知的な美しさにたちまち惹かれたのである。
ヴィエナはかつて自分の音楽を「フォーク・ポップ」とか「チェンバー・フォーク」と呼んでいたが、そのサウンドには5歳から高校までずっとピアノを学んでいたクラシック、台湾からの移民の両親が英語に磨きをかけるために聴いていたサイモン&ガーファンクル、ジェイムズ・テイラー、キャロル・キングなどのシンガー・ソングライター、そしてジャズの影響などが融合している。
そして、美しいメロディーに乗せて歌われる歌詞は私的なものだが、様々な人びとの物語として描く「ミュージカル・ポートレイト」的なものが多く、イメージの使い方や言葉を紡ぐ技巧が非常に優れている。その語り口に引き込まれ、まるで誰か知り合いの物語が語られているような気になるはずだ。
さらに、今回の初来日は人生の新たな時期に入ったばかりのヴィエナを目撃できるという点でも興味深い。10年に彼女は音楽活動を休止して大学院に進み、環境学の学位を取得したのである。そして昨年に新作「エイム」で復帰。初期のピアノ弾き語りから次第にサウンドの幅を広げてきたとはいえ、そこでは大胆にエレクトロニクスを導入した新しいサウンドを聞かせていた。
以前からのファンを驚かせる変身だが、結果的には好評に受け止められ、6月上旬に発表された第13回インディペンデント・ミュージック・アウォーズではなんと4部門をさらった。
そんな新作を携えての来日なので、どういったコンサートになるのかにも興味津々だ。基本はピアノの弾き語りだろうが、ループ・ペダルを使ってヴォーカル他をその場で多重録音するパフォーマンスもできるので、何が飛び出すかが本当に楽しみである。
また、この来日は彼女が1ヶ月をかけて豪州から中国まで7カ国を回るアジア=パシフィック・ツアーの一環である。台湾系アメリカ人であるヴィエナにとっては非常に意味深い旅になるはずだ。
*このコラムは以下のサイトからの転載記事です
【ヴィエナ・テン初来日公演】
8/16(土)・8/17(日)/鎌倉Cafe Goateeにて19時開演
*チケット購入に関する情報はこちら
http://www.cafegoatee.com/viennateng2014.html