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大瀧詠一が“命がけ”で挑んだ一度限りのはっぴいえんど再結成

2025.06.14

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1985年の6月15日、旧国立競技場で開催された『国際青年年記念 ALL TOGETHER NOW』。

日もすっかり暮れた頃、西日の差し込むステージに登場したのは大瀧詠一、細野晴臣、鈴木茂、松本隆の4人によって、12年ぶりの再結成を果たしたバンド、はっぴいえんどだった。

オールナイトニッポンのドラマ『俺たちがはっぴいえんどだ』では、再結成に至る経緯が語られているが、簡潔にまとめれば次のようになる。

「All Together Now」のチーフ・プロデューサーを務めていたニッポン放送の亀渕昭信は、出演してくれるミュージシャンを集めようと奔走していた。

そしてイベントを成功させるために、是非とも大瀧詠一に出演してほしいと考えて、福生にある大瀧の自宅を訪ねた。ところが「当分ライブはやりたくないんだ」と、あっさり断られてしまった。

その日の夜、大瀧が自宅スタジオを掃除していて見つけたのは、はっぴいえんどの昔のカセットテープだった。テープを聴いた大瀧は松本のことが気になって、久しぶりに電話をかけて話をしてみた。

大瀧との会話で細野の名前が出たことから、今度は松本が細野に電話をかけてみた。すると、久しぶりに渋谷のカフェバーで会おうということになった。

それを聞いた大瀧も加わることになり、3人は久々に深夜のカフェバーに集まった。近況についてあれこれと話しているうちに、亀渕から相談された国立競技場でのイベントの話になる。

「そのイベントのことをニューミュージックのお葬式だと悪口言ってるやつもいるらしいんだよ。どうせお葬式なら、逆に俺たちが出てっても面白いかもね」
「はっぴいえんどなんて今の客は知らないだろうな」
「いっそのこと新人グループだと嘘をついてステージに上がろうか」


冗談を交えながら話は弾んで、はっぴいえんどの再結成とイベントへの出演に対して、3人は前向きに考えるようになったのだ。

しかし、松本にはひとつの不安があった。はっぴいえんどの解散以降、10年以上ドラムを叩いていなかったのだ。

翌日、松本のもとに鈴木茂から電話がかかってきた。大瀧か細野から再結成の話を聞いたのかと思ったら、そうではなかった。

「たまには松本さんのところに遊び行きたいなと思って電話しただけだけど」


あまりのタイミングの良さに松本は運命的なものを感じて、その場で再結成の話をすると、鈴木は大賛成と喜んだ。こうして松本の心も固まり、はっぴいえんどは1日だけ再結成することが決まった。

多忙な日々を送る4人。誰か1人でも電話がつながらなければ、再結成はなかったかもしれない。スマホやSNSなどない時代。それはまさにいくつもの偶然が重なって生まれた奇跡だった。

久しぶりのステージに上がったはっぴいえんどのライブは、大滝詠一のこのひと言から始まった。
「はっぴいえんどです」

それははっぴいえんどがライブ活動をしていた頃、ステージで唯一、大瀧が発する言葉だった。手短に挨拶を済ませて演奏に集中する、というのがこのバンドのスタイルだった。

大瀧はコンサート後の感想でこう話している。

僕は歌よりも何よりも「はっぴいえんどです」というひと言に命をかけて、数ヶ月間準備をしたということが一番印象に残っています



大瀧は、1日だけ再結成したはっぴいえんどを最後に、1985年の後半から表立った音楽活動を休止した。どうしてだったのかについて大瀧は、26年後になって「対談 亀渕昭信×大瀧詠一3.11の前と同じようにできるかどうか」で次のように明かしている。

大瀧「僕は1985年にそれまで続けてきた音楽活動を一旦休止したんだけど、そのとき自分にとって音楽は無ければ無くてもいいなと思った。プライオリティーが下がったんだ。はっぴいえんどを始めた1970年から85年までは音楽が一番だった。だから音楽をやってきた。で、85年からの一番のプライオリティーは、命になった」
亀渕「命?」
大瀧「命あっての物種。とりあえず命がありゃいいかと思ったんだ、音楽の前に」


「はっぴいえんどです」と発するひと言に命をかけたという大瀧の言葉は文字通りの意味であり、それほどの強い覚悟を持って最後の大舞台に挑んだことが伺える。

大瀧は国立競技場で実現したはっぴいえんどの再結成を、自身の音楽活動を休止するための、いわば葬式の場として選んだのかもしれない。

(このコラムは2015年7月24日に公開されたものです)


(「対談 亀渕昭信×大瀧詠一3.11の前と同じようにできるかどうか」はこちらのサイトで全文読むことができます)


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