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We Are The Worldの舞台裏で…

2022.01.28

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1984年、マイケル・ジャクソンは名実ともに絶頂期を迎えていた。
当時、彼はテキサス州のがん研究施設から救い出された3歳のチンパンジーを引き取って、どこへ行くときも同行させていた。
“バブルス”と名付けたそのチンパンジーに自分とおそろいの服を着せてパーティーや報道機関向けのイベントに連れて行き、ムーンウォークの踊り方も教え込んだという。
そんな彼のエキセントリックな行動は、音楽への評価とは別のところで大いに世間からの注目を集めていた。
エレファントマンやマリリン・モンローの骨を手に入れたがっているという噂や、酸素テントの中で睡眠をとっている、肌が白くなっている、鼻が細くなり唇が薄くなっているなどなど…。
下世話なタブロイド誌は“ワッコー・ジャッコー(変人マイケル)”などと見出しに踊らせて彼を揶揄するようになっていた。
そんな中、彼は事態を静観していたという。
1984年11月、ハリウッドの“ウォーク・オブ・フェイム”の星が彼に授与される。
その翌月の12月24日に、ボブ・ゲルドフ(ブームタウンラッツ)とミッジ・ユーロ(ウルトラボックス)の呼びかけで、アフリカの飢餓と貧困を解消する目的の下にイギリスのアーティスト達が集結した。
そのテーマソング「Do They Know It’s Christmas?」が、またたく間に収益を上げ“バンド・エイド”というチャリティーキャンペーンは大きな成功を収めた。
この動きに呼応するかのように“USAフォー・アフリカ”という旗の下、マイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーの呼びかけに応じたのは、アメリカのポップス界を代表するアーティスト達だった。
テーマソング「We Are The World」の作詞作曲はマイケルとライオネルが共作で行い、プロデュースはクインシー・ジョーンズが担当した。
なんと彼らはこのアイディアが出てから12時間も経たないうちに曲を書き上げたという。
1985年1月28日の夜、その奇跡のようなレコーディングは実行された。
人種、性別、音楽ジャンル、宗教、キャリアもそれぞれ異なる彼らの“想い”は国境を超えて…普段は高額な出演料や印税をもらっている総勢45人のトップスター達が、エチオピア難民救済のためにノーギャラで集結したのだ。
ボブ・ディランからダイアナ・ロス、シンディ・ローパーやブルース・スプリングスティーンなどあらゆる声質の持ち主が歌える曲を作るのは至難の業と言われていたが「We Are The World」はそれをやってのけたのだ。
参加アーティスト達が1フレーズずつ、それぞれのスタイルで歌うというビデオクリップが世界中で放映され、レコードの売上はアメリカ国内だけでシングル400万枚、アルバム300万枚に達したという。




──そんな華々しい成功の舞台裏で、実はいくつかの“あまり語られていない”エピソードがあったという。
プロデュースを担当したクインシー・ジョーンズは最初、100組近くのアーティスト達にデモテープと共に「自分のエゴはスタジオの入口に預けてきてくれ」と一言添えて送ったという。
数日後…クインシーのもとにはたくさんの返事が届き、結果スケジュールの都合なども含め50組以上のアーティストを断ることとなった。
その中には、何年にも渡り世界の飢餓を救うキャンペーン活動を積極的にしてきたジョン・デンバーの名もあったという。
デビュー後、一躍トップスターの仲間入りを果たしたばかりだったマドンナは不参加を選んだ。
またレコーディング当日、参加したメンバーの一部は『第12回アメリカン・ミュージック・アワード(AMA)』への出演スケジュールが重なっていたため、多くのアーティスト達がスタジオにリムジンで到着する中、ブルース・スプリングスティーンはピックアップトラックで乗りつけたという。
歌の掛け合いのペアの組み合せは、声質がマッチする者同士をクインシーが選んだ。
当初、クインシーはマイケルとのペアを(お互いに強いライバル意識を持っていた)プリンスに組ませようと決めていた。
なぜなら、ペアにすることによって二人の競争意識を弱められるのではないかと踏んでいたからだ。
だが、プリンスは当日スタジオに姿をあらわさなかった…。
結果、マイケルは昔からの親友であるダイアナ・ロスと一緒に歌うこととなった。

♪こちらの記事も是非お楽しみ下さい
■We Are The World〜チャリティソングの金字塔となった歌がレコーディングされた日〜
http://www.tapthepop.net/day/40157


我々に今正しい行いをするときがやってきた
世界が一つになって協力するときが

私達自身が地球なんだ
私達は皆地球の子供なんだ
そしてこの地球をまた輝かせるのは私達自身なんだ
だから与えることからはじめよう


<引用元・参考文献『キング・オブ・ポップ1958‐2009』クリス ロバーツ著(青志社)>

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