「世界を変えようなんて思っていない。ストリートをもっと色鮮やかでカラフルにしたいだけなんだ。音楽には二種類ある。人生を反映したブルースと、詞そのものにはあまり意味はないかもしれないけどサウンドに意味のある“日の光”のような音楽だ。」
1970年9月11日金曜日、レコード・ミラー誌の取材でキース・アルトハム(音楽評論家)はジミ・ヘンドリックスにインタビューを行なった。
この7日後の9月18日、ジミはロンドンのホテルに滞在中に薬物の過剰摂取により他界した。死因は睡眠中の嘔吐による窒息で、寝る前に飲んだ大量のワインと睡眠薬の過剰摂取が引き金となったと言われている。
直接の死因は睡眠薬の多量接種ということだが、ドラッグによって身も心もボロボロに破壊されていたことは明白だ。
ジミの死については医療ミス、自殺、他殺など様々な説が囁かれているが、今となっては真相を知る由もない。
現在YouTubeには、彼が死の1週間前に受けたこのインタビューの一部(音声)が動画として公開されている。動画はアメリカの公共放送局PBSが製作したもので、録音した声とアニメーションを組み合わせた内容となっている。
──あなたがイギリスでデビューを果たした1966年はサイケの全盛期でしたね。その頃と比較して、あなたはファッションや風体も落ち着いた感じになりましたね。
「誰だってそういうフェーズを潜っていくものなんだよ。俺も最初に出てきた頃にはいろんなものを着飾ってたけど、俺がああいう格好をしてたのは、単純に自分のやってることがちょっとうるさ過ぎるんじゃないかってそれが心配だったからなんだよ。だけど、ヴィジュアル面だけで煽られるのも嫌だったんだよね。やっぱりちゃんと聴いてもらいたかったし。俺の音楽をちゃんと聴いてない連中が多過ぎると感じるようになったんだ。だから髪の毛を短く切って、体中にぶらさげていたアクセサリーや指輪を全部取ったんだ。」
──あの有名なギターを燃やすパフォーマンスについて経緯など教えてもらえませんか?
「ある時、今夜ギターを燃やしてみるのはどうだろうって口にしてみたんだよね。ギターをぶっ壊すとか、なんかそういうことをやるべきかなって。そうしたら、それいいねって話になって、本当にいいと思うかって確認しても、絶対にやったら最高だよって話で。じゃあやるには自分の怒りを煽っていかないとなって思ったんだ。でも、俺をそうさせているものが本当に怒りだったのかどうかについて以前の俺はわかってなかったんだよ。でも今はその怒りも収まったことだし、ごてごて飾り立てる必要もなくなった。」
このインタビューの約二週間前に、ジミはデンマークのオーフスで行なわれた公演の直後に取材記者に対して(まるで死を予感しているかのような)奇妙な発言を残している。
「俺は昨日か明日に死ぬだろう。人は皆こうやって死んでゆくんだ。肌の色がどうであれ、人には皆生い立ちというものがある。コカインでは快感が得られない。宗教という言葉を捨てなきゃダメだ。人間には皆、内なる場所に神がいる。オーディエンスが見えないから、俺は夜のライブが大嫌いなんだ。LSDはありのままをさらけ出させるクスリだ。俺はアレクサンダー大王やナポレオン皇帝と同じ、一人の人間に過ぎない。」
また、ジミは生前に遺言のような言葉を残していたという。
「もし俺が死んだらジャムセッションで見送ってくれ…」
その死から10日後の9月28日、検死等の調査を終えたジミの遺体はロンドンからシアトルに空輸され、遺族のもとに運ばれた。
ジミが生きていたらシアトルに骨を埋められることは嫌がっただろうが…遺書にでも書いていないかぎり、それはやむを得ないことだった。葬儀は彼の生まれ故郷、アメリカのワシントン州シアトルで執り行われた。
葬儀の日、ジミの親しい友人や音楽仲間が、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンからやってきた。地元のファンも含め集まった200人ちかくの参列者の中には、ジョニー・ウィンターやジャズ界の巨匠マイルス・デイヴィスの姿もあったという。
葬儀はレエイニアー・アヴェニュー・サウスにある教会で行なわれた。記者が一人、カメラマンが一人だけ入るのを許されただけだった。5〜6台のパトカーと10台近くの白バイが護衛し、沿道に並んだ24台のリムジンと列をなした。父親のアル、妻のジューン、弟のレオンなど、ジミの親類縁者は全員出席していた。
ギター形の大きな花輪を背景にして(ジミが子供の頃によく口ずさんでいた)3曲の讃美歌が歌われ、葬儀はしめやかに執り行われた。
葬儀の後にはシアトル・セントラル・アリーナでミッチ・ミッチェル、ビリー・コックス、ノエル・レディングといったバンドメンバーに加え、マイルス・デイヴィス、ジョニー・ウィンターによる非公式のジャムセッションが行なわれたという。
<参考文献『ジミ・ヘンドリクスかく語りき』スティーブン・ロビー(著)安達眞弓(翻訳)/ スペースシャワーネットワーク>
<参考文献『ジミ・ヘンドリックス エレクトリック・ジプシー〈下〉』ハリー・シャピロ (著)シーザー・グレビーク(著)岡山徹 (翻訳)/ 大栄出版>
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執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
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