生まれ落ちたとき
俺のことを気に入らなかった医者は
両足首をつかんで まるで七面鳥みたいにぶら下げやがった
愛するママ どうしてアイツに俺を叩かせたんだ?
どうかしてるぜ!
どうせ俺のことなんて愛しちゃいなかったんだろ?
「この曲(Tie Me to the Length of That)は、俺の大いなる自信作だ。俺がいかに無愛想な赤ん坊だったかってことだ。俺が生まれたのは1956年1月31日。凍えるように寒い明け方で、親父は病院にへべれけで現れやがったらしいぜ!マヌケな酔っぱらい親父は、俺を抱きかかえると、床に落っことしやがったらしい。」
ジョン・ライドンの出生の記録は諸説ある。
1956年1月31日に生まれたとされているが…本人は自伝などに「俺には出生証明書がなかった。それに両親が正式な婚姻関係のもとで生んだ子じゃなく非嫡出子(ひちゃくしゅつし)だったんだ。」と、綴っている。
“パンクの申し子”として世に出た男が語る言葉なので、どこまでが本当でどこまでがユーモアなのか…すべてにおいて真相は謎のままである。
いくつかの文献に書かれている記録が正しいとすれば…
彼はアイルランド系の貧しい労働者階級の家庭で育ち、3人の弟たちと共にロンドン北部にあるイズリントン・ロンドン特別区のフィンズベリー・パークという小さな町で育ったという。
当時イギリスにおけるアイルランド移民は、ジャマイカ系などの黒人と同様、激しい差別を受けていた。
「俺たち一家の暮らしぶりはまさにスラムそのもので、困窮の極みだった。周囲に住んでいた連中もみんな赤貧だったよ。住んでいたのは古いマンションの裏庭に面した借家だった。台所と寝室しかないところに4人兄弟と両親6人で暮していた。便所は外にあって、通りがかりのルンペンでも誰でも使えるもんだから、夜になると酔っぱらいが便所で正体なくして寝込んでいることもしょっちゅうあった。そばにあった防空壕は不法投棄のゴミで溢れかえってドブネズミの巣窟になっていた。俺は11歳頃までそこで過ごしたんだ。」
彼は自分にアイリッシュの血が流れていることを意識したことがないという。
しかし、両親がアイルランド人だったため、彼は子供の頃から辛い思いを強いられることとなる。
「学校へ向かう通学路で、イングランド人の大人から煉瓦を投げられることもあったよ。カトリック学校へ行く途中にあるプロテスタント居住区は、いつも走って通り過ぎたもんさ。何もしていない子供の俺に向かって“汚らしいアイルランド人め!”と住民が罵声を浴びせてくるんだぜ!世界中の労働者階級に共通していることかもしれないけど、彼らは自分よりも“下”に位置する人間に対して常に憎しみを抱くんだ。自分達を上から押さえつける中流や上流の人間には歯向かうことはないのがイングランド人なのさ。」
1963年、彼は学校に通い初めて間もない頃(当時7歳)に髄膜炎を患い、数ヶ月も昏睡状態に陥ったという。
その後遺症から記憶の大部分を喪失し、意識が戻った時には両親の顔は無論、自分の名前すら思い出せない状態だったため、医師の勧めで脳の機能を回復させるための刺激療法を受けることとなる。
「髄膜炎はネズミが媒介する病気だ。いつ感染してもおかしくはない環境で育ったんだから仕方ない。あの時の酷い頭痛とめまいは一生忘れないだろう。おふくろが医者を呼んで、往診されている最中にブラックアウトしたんだ。次に目覚めたのは病院で、なんと6〜7ヶ月も完璧な昏睡状態だったらしいぜ。読み書きは忘れてなかったけど、喋ることができなくなっていたんだ。自分じゃ言葉を発しているつもりでも、口から出るのはわけのわからない音を発しているだけなんだ。視力にもダメージがあって、遠くはハッキリ見えても近くのものがボヤけて見えなくなっちまったんだ。人に焦点を合わせようとすると睨みつけるような顔になっちまう。まぁ俺にはおあつらえ向きだろ?なぁ!」
彼の家には常に音楽が流れていたという。
父親も母親も音楽好きで、膨大なレコードをコレクションしていたのだ。
「家にはバラエティーに富んだレコードが溢れかえっていて、俺もそれを聴くのが大好きだった。親父は子供たちにジョニー・キャッシュの“A Boy Named Sue(スーという名の少年)”なんかを聴かせて、俺たちがどんなリアクションをするのか楽しんでいたよ。おふくろはトラッド系のバラッドやフォークミュージックも好きだったけど、それと同時にデビューしたばかりのキンクスや、人気絶頂だったビートルズなんかも愛聴していたね。」
<引用元・参考文献『Still a Punk: ジョン・ライドン自伝』ジョン・ライドン(著), 竹林正子(翻訳)/ロッキングオン>
<引用元・参考文献『ジョン・ライドン 新自伝 怒りはエナジー』ジョン・ライドン (著), 田村亜紀 (翻訳)/シンコーミュージック>
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