1998年。ジョニー・キャッシュは、キャリア最後となるライブ・アルバムをウィリー・ネルソンとの共演という形で発表している。
『VH1 Storytellers』と題されたこのアルバムをプロデュースしたのは、ジョニー・キャッシュの晩年を輝かせたリック・ルービンだった。ベテラン・シンガー2人が、それぞれギターを手に、絶妙な会話を挟みながら交互にヒット曲を披露していくのだが、この中で印象的な会話が記録されている。
「コーヒー、紅茶、それともココアかい?」と、ウィリー・ネルソンがジョニー・キャッシュに飲み物をたずねる。ジョニー・キャッシュは笑ったまま、答えようとしない。すると、ウィリー・ネルソンは言うのだ。「まったく、俺たちのイメージも台無しだな」
1932年生まれのジョニー・キャッシュは66歳になっていた。5年後に、愛妻ジューン・カーターの後を追うように天国に召されることになる彼は、この当時すでに肺に病気を抱えていた。
一方のウィリー・ネルソンは1933年生まれ、ジョニー・キャッシュのひとつ年下である。若い頃のジョニー・キャッシュが酒とドラッグの日々を過ごしたように、いや、それ以上に、ウィリー・ネルソンには酒とマリファナのイメージがまとわりついていた。
前回のコラムで「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」のヒットのかげには、ウィリーのアウトローとしてのイメージが大きかったと書いたわけだが、それは彼のライフスタイルだけでなく、彼の名を不動のものとした「ブルー・アイズ・クライング・イン・ザ・レイン」によるものである。
二度と会うことはないことを知りつつ、別れの口づけをする男。雨の中、彼女のブルーの瞳に浮かぶ涙を忘れない。。。
「この曲を歌う時、特に、気持ちが高ぶっている観客を前にして、その感情に酔いそうな時は、こう言いたくなるのさ。一杯、飲ませてくれよとね」
ウィリー・ネルソンは1970年代後半のインタビューでそう語っている。
フレッド・ローズが1940年代に書いたこのカントリー・ソングは、いわゆる流れ者の恋愛を描いた作品なのだが、ウィリー・ネルソンはこの歌で初のカントリー・チャート1位を記録しただけでなく、その年のグラミー賞最優秀男性カントリー・シンガーに選ばれたのである。
だが、この歌にはもう一つの側面がある。それは主人公の最後のセリフである。
いつか、俺たちは手に手をとって歩くだろう
永遠に別れることのない、その土地で
主人公は彼女に対して、天国での再会を示唆しているのである。そしてこの歌を、生前最後の曲として歌ったのが、エルヴィス・プレスリーであった。
1977年8月16日。彼がこの世を去ることとなるその日の朝、エルヴィスは友人たちを前に、ピアノでこの歌を披露している。
果たして。。。エルヴィスは自らの死を予感していたのだろうか。
From Elvis Presley Boulevard, Memphis, Tennessee
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