いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく連載「TOKYO音楽酒場」。今回訪れたのは、美味しい料理やお酒もしっかりと味わせてくれる、居酒屋のようなクラブのようなオリジナルなスタンスを感じさせる楽しいお店です。
渋谷駅南口を出て、国道246号線にかかる大きな歩道橋を渡る。春になれば桜並木が見事に咲き誇り、うららかな空気に包まれるこの一帯には、大きな楽器店や老舗のジャズ喫茶、ライブハウス、クラブなど音楽に関連する店舗が点在する。またインフォスタワーやセルリアンタワーといった高層ビルが立ち並ぶ一方で、昔ながらの佇まいを残す飲食店も数多く営業していたりと、渋谷エリアの中でもちょっと独特の時間が流れているのが、この桜丘町だ。セルリアンタワーの裏手にある曲がりくねった坂道を登り、左手にある路地に入ると、今回訪れる〈MeWe(ミーウィー)〉の看板が見える。
2002年5月にオープンしたMeWe。店名は「世界で一番短い詩」と言われる、モハメッド・アリが70年代に残した名言から採られた。マスターとして店を切り盛りしているのは、伊達啓一郎さん。お店が生まれるきっかけには、かつて恵比寿にあった、アパレル関係者やミュージシャン、クリエイターなどが夜ごと集う個性的なバーの存在があった。
「もともと〈次郎長Bar〉っていう店が恵比寿にありまして、その店にはDJとか関わっている人が何人かいて、その中で僕はバーテンダーとしてお酒を作ってたんです。それからBLUE、MIXといったクラブで働いた後、妹が経営していたパン屋で一緒に働いて、自分の店をはじめる資金を貯めていた。そんな頃に、次郎長BarでDJをしていた遠藤聡明さん(イラストレーター/現・西麻布〈新世界〉スタッフ)が発起人となって、DJブースもちゃんとあって、ちゃんとライブも出来るような飲み屋を新しくはじめようって話が持ち上がって。僕も自分で店をやろうと思ってたけど、一人じゃなかなか大変だったから、その話に乗ったんですね」(伊達)
長年、東京のクラブ運営に関わってきた有志数名が資金を持ち寄り、「クラブカルチャーのその後を模索していく空間」を作ろうというコンセプトのもと、2002年5月にMeWeはオープンした。開店から数年は共同経営のカタチを取っていたが、個々の事情もあって立ち上げメンバーも店を離れていき、現在は伊達さん自身がオーナー/マスター/料理長のすべての業務をこなしている。
「ウチが入る前のテナントは、カラオケスナックが入ってたそうなんですが、その解体から内装工事まで、やれるところは自分たちで作って。店内の雰囲気は、オープン当初からほとんど変わってないですね。ギターなんかも置いてあるから、弾きたい人は弾いていいし。そういえばあのギター、Ego-Wrappin’の森くんとか、これまでにいろんな人が弾いてくれたなぁ」(伊達)
マスターの幅広い音楽的指向や、クラブ・シーンで働いた頃の交流もあって、MeWeには開店当初からミュージシャンやDJはもちろん、音楽に関係する職業の人々も多く訪れる。週末を中心にアコースティックのライブ・イベントも開催。スーパーバタードッグやマボロシなどの活躍で知られるギタリストの竹内朋康や、F.I.Bジャーナル、mama!milk、エマーソン北村、なかの綾など、多彩なアーティストがこれまでに出演してきた。定期的にMeWeのカウンターに入りながら、イベントのブッキングを手がけるのは、DJやフリーランスのプロモーターとしても活躍する堀井康さん。
「店長は、頭がやわらかいんですよ。僕が『こんなライブの企画のやりたい』って相談すれば、面白がってやらせてくれる。たとえば僕がプロモーションを担当してるなかの綾さんは、都内の酒場をまわる〈東京酒場ツアー〉というライブをやってるんですが、以前ここで開催した時も、たくさんのお客さんが盛り上がってくれて。MeWeはすごく自由度が高い店だと思いますね」(堀井)
ライブ以外にも、スカやソウル、ファンク、歌謡曲などのDJイベントも不定期に開催。最近のアイドル曲だけをかけて盛り上がるパーティが行われたりも。
「ウチによく飲みに来ているモッズ/スカ界隈の連中が、アイドルにハマってて。面白そうだから試しにやってみなよってはじまったのが〈Idol Freak Out!〉というDJイベントで。そこで普段聴かないアイドルの曲に触れたら、楽曲も面白いし、曲としてもよく出来てて、僕自身もアイドルが好きになっちゃいましたね(笑)」(伊達)
MeWeの魅力は音楽だけではない。居酒屋としてもしっかりと満足させてくれる、美味しい料理の数々も評判だ。
「僕は開店時からずっと店長なんですけど、もともとホールとバーテン出身なんで、料理は仕込みの手伝い程度しかやってなかった。当初はDJの向井浩さんが調理を担当していて、今でも定番の〈牛すじ豆腐〉や〈山芋の唐揚げ〉なんかは向井さんが考えたものですね。僕が一人で店をやるようになってから、本格的に料理もはじめて。定番は押さえつつ、なるべく季節感を出していきたいなって思ってメニューを考えてます」(伊達)
店でスモークして作られる〈ししゃもの燻製〉や、ソースをたっぷりしみ込ませた〈ハムカツ〉など、まさに酒呑みのツボを心得たメニューが並ぶ。もちろん酒の種類も、ビール通に愛されるサッポロ赤星をはじめ、日本酒・焼酎・ホッピーと、マスター自身の好みが反映されたセレクトが窺える。燗酒を頼めば、卓上の湯燗器で供してくれるこだわりも嬉しい。そんなドリンクメニューの中でも店の一番人気は、〈銀河系一美味しい〉と自負するウーロンハイ。
「台湾の凍頂烏龍茶を茶葉から煮出して作ってるので、絶対的に美味しいと思います。ベースにしてる焼酎は、ちょっと企業秘密でお教えできないんですけど、その焼酎との相性も抜群です」(伊達)
FMのパーソナリティとしても活躍されているエディター/ライターの渡辺祐さんも、MeWeを「社食」と呼ぶほどの常連。店の周年パーティではDJとしても参加したそう。取材当日、仕事仲間とたまたま訪れていた渡辺さんにも、MeWeの魅力について語ってもらった。
「まぁ、事務所(註:渡辺さんが主宰する編集プロダクション〈ドゥ・ザ・モンキー〉)が近いからよく通ってるというのもあるんですけど、言い方を変えれば、オフィスの近くに美味しいご飯が食べられて酒も飲める、とても使い勝手のいい店があるっていうのはありがたいことで。お酒もホッピーから日本酒まで揃っていたりと、居酒屋としての大事なところをしっかり押さえていながら、そこにいい音楽もあって。しかも弊社で編集した本もしっかり置いてあったりする趣味の良さも素晴らしいですね(笑)。それに、インディペンデントでいい音楽を発信している人たちってなかなか会う機会も少ないんだけど、この店だとライブもやってるし、そういう活動している人たちが普通にお客さんとしても来ていたりもするから、いろんな音楽を知る場にもなる。そこは、MeWeっていう店の力なんじゃないですかね」(渡辺)
「僕の中では、この店はクラブだと思ってて。音をガンガン出して踊るって感じではないけど、いい音楽がほどほどのいい音で流れてて、そこに美味しいお酒と美味しいおつまみがあれば、それでいい。そういう空間でまったく知らない人同士が、聴いてる音楽をきっかけに仲良くなったりして。そこから交流が生まれて、つながりが広がっていって……それって最高じゃないですか?」(伊達)
若手から先輩の世代まで、音楽とお酒をこよなく愛する人たちが気軽に集い、交流しあう場所──いい音と笑い声が絶えないこの店は、音楽を中心としたサロン的な役割も果たしているようだ。最後に、店としての今後の展望を訊いてみた。
「ウチのまわりにも店をやってる友達もいるし、いい音楽を発信しているお店同士で連携したイベントをやってみたいですね。下北沢や吉祥寺にはあるけど、渋谷っていろんな店を回遊するような企画が意外となくて。まぁ、ウチのお客さんも飲みはじめると根が生えて、じっくり飲んじゃうタイプが多いからなぁ……お店としては嬉しいことなんですけど(笑)」(伊達)
撮影/相澤心也
MeWe
東京都渋谷区桜丘町28-3 恒和渋谷ビル2F
19:00~2:00(月〜木・土)
19:00~4:00(金)
日曜・第二月曜日・祝日の月曜日休
TEL:03-3464-0061
http://mewe2002.jimdo.com/
Facebookページ
音民 feat. 東京酒場ツアー@渋谷MeWe
3月14日(土)Open 19:00
1st stage / 21:00~ 2nd stage / 23:00~
Live:なかの綾
DJs:MANTAMS(MANABU INOUE&CHINTAM)
Guest DJ:はせはじむ
(入場無料の2ステージ投げ銭ライブ)