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プラトーン〜誰のために戦っているのか分からなかったベトナム戦争の若者たち

2023.12.19

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『プラトーン』(PLATOON/1986)


1987年、バブル経済が幕開けたばかりの春。新宿・歌舞伎町の映画館から出てきた時の、あの何とも言えない気分のことを今でも覚えている。

学校帰りに何となく観ようと思って友達と一緒に入ったものの、2時間後にはどうしようもない気持ちになっていた。みんな同じだったらしく、あまり会話も弾まなかった。戦争のことなどテレビや映画でしか知らない18歳の少年たちには、あまりに強烈な光景だったのだ。

理性の通じない所を地獄というのなら、ここがそうだ。
一週間でもう嫌になった。
1年も続ける自信がない。来たのが間違いだった。


そんなナレーションから始まる映画『プラトーン』(PLATOON/1986)は、1960年代後半のベトナム戦争の真実を描いた物語だった。監督/脚本はオリバー・ストーンで、15ヶ月のベトナム徴兵の実体験をもとに制作された。退役してすぐの69年に構想し、76年に脚本を書き上げ、映画化までさらに10年。登場人物は所属した部隊にいた人物たちをモデルにした。

ゆえにリアリティの一貫とメッセージ性に満ち溢れ、それまでのベトナム戦争を題材にした映画とは一線を画した。間違ってもハリウッドお得意のアクション映画ではない。それとは真逆のムードが漂う。そこには青春の風景、人間の葛藤、哀しみや虚しさが描かれたノンフィクション・フィルムそのものだった。サミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」が効果的に使われ、作品はアカデミー作品賞を受賞。

──1967年9月、泥沼化するベトナム。裕福な家庭に育ちながらも、大学を中退して両親の反対を押し切って志願兵となり、第25歩兵部隊に配属されたクリス・テイラー(チャーリー・シーン)。

「聞いたこともないような町の出の貧しい家の若者や黒人の若者だけを戦わせるのは不公平だ」「生温い環境で安住する自分が許せない」という強い意志を持っていたにも関わらず、一緒に配属された仲間がいきなり殺される過酷な現実を前に言葉を失う。

クリスのいる小隊には、対立するバーンズ(トム・ベレンジャー)とエリアス(ウィレム・デフォー)という二人のリーダーがいる。最初は鬼のようにタフなバーンズに魅かれていたクリスだったが、何の罪もない村人たちを銃殺隊のように始末していく残虐な行動に耐えられなくなったその時、激怒したエリアスがバーンズに殴り掛かる。

二人の溝は決定的になった。軍人である以前に人間でありたいと悟ったクリスは、レイプされかけた村の少女を助けるのだった。クリスはエリアスと星空を見上げながら語り合う。「この戦争は負ける。俺たちの国は横暴過ぎたよ」と呟くエリアス。

士気は低く、疑惑と憎悪がうずまき、
一体誰と戦っているのか分からない。
除隊の日だけが楽しみだ。


激戦となった地で、エリアスは裏切ったバーンズに撃たれたことが原因で悲惨な死を遂げる。それを知ったクリスは黙って見過ごすわけにはいかないと仲間とバーンズ殺しを計画。しかしバーンズは「俺が現実だ」と言って、逆にクリスが殺されそうになる。

そして次の日。軍人としても人間としてもタフになっていたクリスは、ベトナムのジャングルの中であることを実行する……。

僕たちは自分自身と戦ったんだ。敵は自分の中にいた。
僕の戦争は終わった。
エリアスとバーンズの反目はいつまでも続くだろう。
時として僕は彼らの間の子のような気さえする。


ラストシーン。ヘリコプターに乗り込んだ負傷したクリスは、ベトナムの夕暮れ空の中で涙を流しながら静かに語っていく。

生き残った僕らには義務がある。
戦場で見てきたことを伝え、残された一生を努力して、
人生を意義あるものにすることだ。


バーンズたちのグループがポーカーやバーボンに明け暮れている頃、エリアスたちはマリファナ・パーティをしていたが、クリスもそこで初体験をするシーンが印象的だった。

サイケデリックなジェファーソン・エアプレインの「White Rabbit」で煙を吸い込み、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの「The Tracks of My Tears」に合わせて戦友たちと踊り明かす。戦場での音楽のあり方を伝えてくれた極めて重要なシーンだ。

戦場でのマリファナと屈指の名曲「The Tracks of My Tears」


『プラトーン』

『プラトーン』






*日本公開時チラシ
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*このコラムは2015年1月に公開されたものからタイトルを変更しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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