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ウォール街〜「欲は善である」と豪語して伝説になった“ゴードン・ゲッコー”の非情な世界

2023.12.28

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『ウォール街』(Wall Street/1987)


TAP the SCENEではこれまで『マネー・ショート〜“リーマンショック”を予期した4人のアウトローたちの葛藤』『ウルフ・オブ・ウォールストリート〜実在した破天荒な株式ブローカーの成り上りと破滅』といった“金”に関する映画を取り上げてきた。

創造性ある“音楽”とは正反対のこのジャンル。むしろ体制側を疑問視してきた、特に熱心なロックファンには嫌悪されるであろうマネー映画をあえて紹介するのには理由がある。

日本では長年に渡って「金で金を買う」「札束とかくれんぼ」するような行為は、真っ当な人々の間で「怪しくて汚い連中がやること」「下品で野暮な行為だ」という風潮が確かにあった。これはお金の教育面で欧米に比べれて遥かに遅れていること。つまり、ほとんどの人が大人になってからお金の仕組みや現実と直面せざるを得ない事情とも関係している。

しかし、あの実態のないバブル経済のツケを支払わされ、「銀行に預ければ自動的に増えた」時代はとっくに終わり、インターネットやテクノロジーが社会のあり方や価値観を変え、少子高齢化や経済格差、詐欺問題などが深刻化してきた今、もう憎き醜い“金”に目を背けてばかりはいられない。

これ以上権力やシステムに搾取されたくなければ、“金”に対するアレルギーを克服してそれなりの攻守(知恵や知識)を身につけておく必要がある……大まかになってしまったが、そんな想いもあり少しずつライブラリに加えている次第だ。

『ウォール街』(Wall Street/1987)は、日本のバブル経済が狂乱化した時期に公開。投資に熱中していたサラリーマンやOLたちの間で話題になったマネー映画の先駆け。

架空の人物にも関わらず、金融関係のニュースで何かと引き合いに出されるほど有名になった“ゴードン・ゲッコー”なる強烈なキャラクターを生んだことでも知られている。非情で道徳心を破綻し、生き馬の目を抜く業界に君臨する。「欲は善である。欲は正しい。欲は導く。欲は物事を明確にし、道を開き、発展の精神を磨き上げる」と豪語した男。

ゲッコーを演じたマイケル・ダグラスはアカデミー主演賞を受賞。高級スーツ、高級車、高級マンション、高級レストラン、見栄えのいい女……そんな虚栄の世界に憧れるヤッピー、ウォール街の若手証券マンであるバド・フォックスにはチャーリー・シーン。ゴードンのライバル、ワイルドマン役には名優テレンス・スタンプ。真っ当な人間性を持つバドの父親にマーティン・シーン。これだけでも見応え十分だ。

当時、オリバー・ストーン監督はこんなことを言っている。ニューヨークは彼の故郷であり、父親がウォール街の株式仲買人だったことも影響したのだろう。『スカーフェイス』(1983)の脚本を書いている頃から着想はあったという。

これは『プラトーン』(1986)のベトナム戦争が、ウォール街に変わった映画と思ってくれるといい。金の世界も戦争で、緊張と精神的暴力がウォール街の日常だ……ここでは早めに成功しようとして、多大なプレッシャーがのしかかってくる。それがまたトラブルの原因になる。耳寄りな情報に溢れ、何より金が優先という社会で、どう自分を制御していくか。


時は1985年のウォール街。株式市場はかつてない活況に沸いている。59日間連続で電話を掛け続け、やっとの思いで大物ゲッコーに近づくことができたバドは、期待に応えながら勝利の法則を叩き込まれていく。アイビー出のエリートを敵対視するゲッコーは決して損は許さない男。

年収40万ドルで旅行はファーストクラス。そんなケチな次元の話じゃない。旅行は自家用ジェット。一攫千金のスケジュール。5000万ドル、1億ドルの金を動かす。自分が駒を握る人間だ。さあ、どうする?


ゲッコー帝国の巨額の富は、イカサマ行為であるインサイダー取引で築かれたものだった。成功の甘き香りに酔いしれるバドは、道徳心と葛藤しながらもゲッコーに情報を流し続けて出世する。選択肢はない。やらなきゃ即ゲームオーバー。

しかし、父親が長年務める地元の航空会社がゲッコーの次なる金儲けのターゲットであることを知るバド。表向きは経営再建と言いながらも、実は解体・売却して私腹を肥やすつもりなのだ。富は平等に広がらない。集中する。バドを利用しようが、大量の労働者が失業して路頭に迷おうが、そんなことはゲッコーにとってどうでもいいこと。

本当に自分が向き合うのは誠実に生きる父親ではないのか。「自分を誇れる人間になれ」「金とは後で悔やむことをさせるものだ」「財布の大きさで人を測るな」。平常心を取り戻したバドは、ゴードンを潰すためにライバルのワイルドマンに近づいていく。

インサイダー取引に巻き込まれたバドは逮捕されるが、今度はゲッコー逮捕のために芝居を強いられる。公園で殴られるバドだが、忍ばせたテープレコーダーにはゲッコーの決定的犯罪の証拠が録音された。

「俺は君の中に自分を見た。なぜ裏切った?」
「自分が分かったんだ。ゴードン・ゲッコーを夢見ても、バド・フォックスだと」

そして罪を償うため、バドは検事局の階段を虚しく上がっていく……。

『ウォール街』は、紛れもなく「文化の崩壊」を示そうとした作品だ。「決闘のルールを無視して相手を背後から射つ」行為に、もはや闘う男としての美学はない。ゴードン・ゲッコーとはそんな時代を象徴する悪玉だった。

アメリカが第三世界に対して何をしているか。どういう政治態度を取っているか。彼らはまったく理解しようとしない。貧しい人や不当に扱われている人々にも同情を寄せようとしない。すべて利己的な人種なんだ。それが映画のテーマの一つだ。


物語はまだ終わらない。続編の『ウォール・ストリート』(Wall Street: Money Never Sleeps/2010)では、それから20年後のゴードン・ゲッコー、インターネットと人工知能が支配するウォール街、ミリオンからビリオンへと膨らんだ投資欲、リーマン・ショックによって巻き起こる金融パニックを描いた。

刑務所から一人寂しく出てくるゲッコーの姿から始まり、そこに成長してジャーナリストになった娘との関係修復、その婚約者であり投資銀行に勤めながら次世代クリーン・エネルギーに未来を賭ける若者、さらにはゴードンと比べ物にならないくらい腐り切った金融界の黒幕への復讐、そして逮捕前にスイスの銀行に流しておいた昔の1億ドルの行方が絡んでいく。「アメリカは病んでいる」と嘆き、過去の存在に成り下がったゲッコーは果たして復活するのか?

『ウォール・ストリート』では欲だけでなく、妬み、やり過ぎによる問題も扱っている。もし5000万ドル手にしていたら、それは大金であり、人の欲を満たすに十分な額だろう。しかし友人が1億ドル稼いでいるという理由で、それは欲ではなく妬みになるんだ。欲という行動は聖書と同じくらい昔からあるものだと思う。それは人間の心に深く浸み込んでいる。


音楽面ではフランク・シナトラの「Fly Me to the Moon」、トーキング・ヘッズやデヴィッド・バーンの楽曲が耳に残る。『ウォール・ストリート』では携帯の着信音が『続・夕陽のガンマン』となっていることからも分かるように、この映画がどこから来たか、優れたスピリットが伺える。

『ウォール街』予告編


『ウォール・ストリート』予告編

『ウォール街』


『ウォール・ストリート』


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*日本公開時チラシ

*参考・引用/『ウォール街』『ウォール・ストリート』DVD特典映像、パンフレット
*このコラムは2018年3月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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