『ミッドナイト・エクスプレス』(Midnight Express/1978)
『ミシシッピー・バーニング』や『バーディ』、音楽ファンには『ピンク・フロイド ザ・ウォール』や『ザ・コミットメンツ』といった作品で知られるイギリスの巨匠アラン・パーカー監督。
そして『プラトーン』『ウォール街』『JFK』と戦場・投資・政治の世界を舞台とした問題作を次々と発表し、ロックファンにも『ドアーズ』の監督として名高いオリバー・ストーン。
この二人の映画人が若き日々に意気投合して作ったのが『ミッドナイト・エクスプレス』(Midnight Express/1978) だ。
原作はビリー・ヘイズ。彼は1970年にトルコ旅行でハシシ(大麻の一種でマリファナの樹脂を固めたもの)をアメリカに持ち帰ろうとして逮捕。そのまま重罪となり、トルコの刑務所にブチ込まれた時の恐怖体験を発表した。
アラン・パーカーはこの話を気に入って自身の2作目にしようと動く。同じ頃『プラトーン』の脚本の売り込みをハリウッド中から断られ続けていたオリバー・ストーンは、この話の脚本化のオファーに飛びつく。駆け出しのストーンは一ヶ月半で初稿を書き上げ、プロデューサーや監督の心を捉えた。
パーカーは主演候補のリチャード・ギアと接触するが、売り出し中の俳優とウマが合わずに断念。ほとんど無名のブラッド・デイヴィスを起用する。どうせ制作費も掛けられない。だが、メソッド演技でとことん自分を追い詰めていくこの俳優は、完全に役になりきってスタッフたちを驚かせた。
音楽を担当したのはジョルジオ・モロダー。パーカーはヴァンゲリスの音楽が気に入っていたが、結果的にモロダーのシンセサイザー音楽はアカデミー賞作曲賞を受賞。
ストーンもデビュー作にして脚本賞を獲得したが、原作を完全に超越した過激なシナリオ創作は、公開当初にトルコ政府の非難の的となり、後年謝罪する羽目になった(あまりにもトルコ人を非情に描写しずきていたとして)。
しかし、映画としての完成度は極めて高い。言葉も通じず、文化も違う異国の地で味わう恐怖・不安・絶望は、40年経った今も観る者を釘付けにする。軽い気持ちのつもりでやったことが、見知らぬ土地であるがゆえに取り返しのつかない事態になっていく、という流れは決して他人事ではないからだ。
また、見方を変えれば、『ミッドナイト・エクスプレス』は不当な体制に対する怒りという普遍的なテーマを持つ。タイトルは「脱走・脱獄」を意味するスラングだが、単なる刑務所モノではない奥深さと感動があることは、観終われば分かるだろう。
トルコの大都市イスタンブールの空港。アメリカ人の青年ビリー(ブラッド・デイヴィス)はハシシの密輸容疑で逮捕される。身の危険を感じた彼は思わず逃亡するが、あえなく拘束。4年の刑を言い渡される。「麻薬の国」という悪しきイメージから汚名挽回したいトルコ政府は、当時アメリカと緊張関係にあったことも作用した。
ビリーは投獄された刑務所が、ただならぬ場所であることを知る。絶対権力を持つ所長から人権を無視され、屈辱的な拷問を受けるビリー。英語を話すアメリカ人やイギリス人の仲間ができるものの、「ここは地獄だぞ。精神病になるか、脱獄するか」の選択を強いられる。ビリーはそれでも極限状態の日々を何とか耐え抜き、釈放まで数日が迫った。
ところが信じられない展開が起こる。父親や恋人の必死の協力も虚しく、政治的に利用されて裁判のやり直し。今度は30年もの刑が宣告される。あまりにも無茶苦茶な事態に怒りを爆発させるしかないビリー。「お前らはみんな豚だ! 全員呪ってやる!!」。こうして“ミッドナイト・エクスプレス”の機会を伺う青年の長い日々が始まった……。
数年後、『ミッドナイト・エクスプレス』は『タクシー・ドライバー』と2本立てで上映されたことがあった。その時、劇場の外には警官が何人か待ち構えていたそうだ。理由を尋ねるとこう言ったという。「こんな映画を2本も観る奴らなんて、絶対に強硬派に間違いないだろ」
予告編
『ミッドナイト・エクスプレス』
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*日本公開時チラシ
*参考・引用/『ミッドナイト・エクスプレス』DVD特典映像、パンフレット
*このコラムは2019年10月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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