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気狂いピエロ~「ヌーヴェルヴァーグの到達点」と称されたゴダールの最高傑作

2024.11.15

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『気狂いピエロ』(PIERROT LE FOU/1965)


Jean-Luc Godard(ジャン=リュック・ゴダール)1930.12.3-2022.9.13
Jean-Paul Belmondo(ジャン=ポール・ベルモンド)1933.4.9-2021.9.6
Anna Karina(アンナ・カリーナ)1940.9.22-2019.12.14

──1987年。東京・早稲田にあった小さな映画館でゴダールの二本立てを上映していたので観に行った記憶がある。1本目はデビュー作の『勝手にしやがれ』で、冒頭からいきなりその魅力にやられてしまった。ハリウッド産の商業映画に慣れ親しんだ18歳の少年にとって、それは余りにも衝撃的な映像と感性だったのだ。

そして2本目は『気狂いピエロ』。こちらは何というか、正直よく解らなかった。ジョン・ヒューズの学園映画や『トップガン』などでアメリカナイズされたティーンエイジャーの頭の中に、突然放り込まれたゴダールの最高傑作。当たり前だ。しかし、観終わった後でもあの独特のムードや絵画的な映像が、なぜかまとわりついて離れてくれない。不思議な魅力を放つ映画だった。たかが映画でこんなに強烈な体験ができるのか。

『気狂いピエロ』を理解したくて、それから人知れずビデオを借りる羽目になった。観る度に新しい発見や想像ができる映画になった。ゴダール映画が決して難解でないことも年月の流れが解決してくれた。この映画にはあらゆるジャンルが詰まっている。それは人の一生そのものだ。

──フランスの若い映画作家たちによる斬新な手法や感覚を用いた作品群が「ヌーヴェルヴァーグ」と呼ばれ、フランソワ・トリュフォー『大人は判ってくれない』、クロード・シャブロル『いとこ同志』、エリック・ロメール『獅子座』、ジャン・リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』といった映画が製作されたのが1959年。

以降、60年代後半まで「ヌーヴェルヴァーグ」は映画界のヒップであり続けた。世界中で同じような「ニューシネマ」運動が起こった時代だった。

ゴダールが34歳の時に発表した10作目『気狂いピエロ』(PIERROT LE FOU/1965)は、「ヌーヴェルヴァーグの到達点」として映画史に永遠に刻まれている大傑作。

公開当初は賛否両論あったようだが、それは80歳を過ぎた最近の作品でも変わらない。主演は元妻で当時は既に離婚していたアンナ・カリーナ。そして『勝手にしやがれ』で大スターになったジャン・ポール・ベルモンド。

映画には小説・詩・美術・音楽・コミックなど大量の芸術作品/大衆文化がサンプリング/コラージュされているのが大きな特徴。それらを探して広げていくのも楽しみ方の一つかもしれない。

また、主人公の男には名前があるのに、女からいつも「ねえ、ピエロ」と呼ばれ、「俺はフェルディナンだ」と繰り返すあたりは、テクノやヒップホップにも似たループの陶酔感が味わえる。そういう意味で“今”を感じる。

(以下ストーリー・結末含む)
──フェルディナン(ジャン・ポール・ベルモンド)は、妻の両親のパーティがきっかけで昔の恋人マリアンヌ(アンナ・カリーナ)と5年ぶりに再会する。「周りの連中がみんなアホみたいに見える」と言うフェルディナンは、型通りの恵まれた生活に嫌気が差していた。

マリアンヌは相変わらず謎めいていて、以前にも増して美しくなっていた。一夜を共にした翌朝、フェルディナンは家庭を捨て去り、マリヌンヌとの愛の逃避行を選ぶ。彼女の兄がいるという南仏への道程は、盗みと金稼ぎ、愛と冒険、そして芸術と死の旅であろうとも知らずに。

リゾート地で過ごす二人。フェルディナンは日記をつけたり読書に没頭するが、マリアンヌは退屈に耐えられる女ではなかった。やがて彼女は死体を残して失踪。フェルディナンは男たちから拷問を受ける。どうやら組織の武器密輸と金のトラブルに巻き込まれたらしい。

マリアンヌがフェルディナンを利用して大金を手に入れ、兄が組織のボスでマリアンヌの愛人であることを知ると、裏切られたフェルディナンは二人を追って離島へと急ぐ。彼はそこでマリアンヌを撃って抱きしめる。彼女が死ぬと、フェルディナンはダイナマイトを頭に巻き付けて自爆する。

ニコラ・ド・スタールが描いたような真夏の南仏の海には、アルチュール・ランボーの詩『地獄の季節』の一節が静かに流れている……。

見つかった
何が?
永遠が
海に溶け込む太陽が


『気狂いピエロ』に出てくる主なサンプリング/コラージュ
【美術/絵画】
○ベラスケス
○ルノワール
○ピカソ
○ゴッホ
○モディリアーニ
○ミロ
○ニコラ・ド・スタール
【文学/小説】
○バルザック『セザール・ビロトー』
○マルセル・プルースト『失われた時を求めて』
○スコット・フィッツジェラルド『夜はやさし』
○エドガー・アラン・ポー『ウィリアム・ウィルソン』
○ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』
○セリーヌ『夜の果ての旅』『ギニョルズ・バンド』
○ルイス・アラゴン『屠殺』
○レイモンド・チャンドラー
○ジェイムズ・ジョイス
○ジョセフ・コンラッド
○ウィリアム・フォークナー
○ジャック・ロンドン
○ロバート・ルイス・スティーヴンソン
【文学/詩】
○ランボー『地獄の季節』
○ボードレール『悪の華』
○プレヴェール『パロール』
【映画】
○『ジョニー・ギター』
○『ヒズ・ガール・フライデー』
【人物】
○サミュエル・フラー(映画監督)*カメオ出演
○レーモン・ドゥヴォス(コメディアン)*カメオ出演
○アイシャ・アバディ(亡命王女)*カメオ出演
○ミシェル・シモン(俳優)*物真似
【音楽/歌】
○ベートーヴェン『運命』
○アントワーヌ・デュアメル「私の運命線」
【書籍】
○エリ・フォール『美術史』
○ルイ・フォルトン『ピエ・二クレ』*コミック

アンナ・カリーナが歌う「私の運命線」


『気狂いピエロ』

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*日本公開時チラシ
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*このコラムは2015年6月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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