『デスペラード』(Desperado/1995)
僕らはインディ・ジョーンズやルーク・スカイウォーカーに憧れて育ったけど、メキシコ人はいつも映画では悪人だったから、そんな状況を変えたかったんだ。
1990年代半ば。アメリカ映画は着実に面白くなっていた。クエンティン・タランティーノらを代表とする新しい世代の映画作家たちが、それまでとはちょっと違う感性と世界観で続々とハリウッドに殴り込みをかけていたのだ。
1968年生まれのロバート・ロドリゲスもその一人。1992年、人体実験のアルバイトと友人が土地を売却して得た7000ドルの低予算で『エル・マリアッチ』をわずか14日で撮影。翌年のサンダンス・フィルム・フェスティバルで観客賞を獲得して絶賛を浴びた。こうして奇跡を起こしたロドリゲスはハリウッドと契約。続編ともいうべき作品『デスペラード』(Desperado/1995)に着手する。
今度の予算は1000倍の700万ドル。しかし、アメリカ映画の製作費の平均は当時3000万ドル。メジャーとはいえ、まだまだ低予算しかもらえなかった。ロドリゲスはスペイン人俳優アントニオ・バンデラスを前作同様ラテン・ヒーローに迎え、再び困難な映画作りに挑む。監督、脚本、製作、編集、現場では自らカメラも回した。
自分の育った環境を題材に、他と違った、もっと自己に直結した映画を作りたいと思った。超大作と呼ばれるビッグなアクションムービーに負けないためにはどうすればいいのか? お金で解決できない場合は別の手段を取るしかない。
自分たちを追い詰めてもっとクリエイティヴにありたいという願いがエネルギーとなって、国境を乗り越えることができた。ただひたすら走り回って乗り切るしかなかったことが、かえって良い結果を生んだのかもしれない。
たった二ヶ月間の撮影。ロケ地はメキシコ国境のアクーナ。クルーの8割はメキシコ人。使った弾薬8000発。演奏や歌は吹き替えなし。もちろんスタントもなし。ジム・ジャームッシュ映画でおなじみの名優スティーブ・ブシェミ、映画祭で知り合ったタランティーノが出演。音楽にはロス・ロボスも参加。
流れ者が悪党ども始末するモチーフながらも、今までその種の映画にはなかったコミックヒーロー的な軽快さと躍動感、アクションだけでなくロマンチシズムやユーモアさえ加わった。これがヒットしないわけがない。オープニングでバンデラスが「我が心のモレーナ」を歌うシーンも見どころの一つだ。
恋人をギャングに殺され、ギター弾きの命だった手を負傷した男の復讐劇。舞台はメキシコ国境の町サンタ・セシリア。ヒーローの名はマリアッチ。スペイン語でメキシコの伝統音楽と演奏家を意味する。黒装束に身を包み、手にしたギターケースには高性能の銃が詰まっている。
サンタ・セシリアの夕暮れは眩しかった。一日の疲れをどうやって癒すかを人々は考え始める時間だった。誰もが心のブラインドを下ろして、自分だけの静かな暮らしに戻り始める時間だった。だが、タラスコ・バーの扉の前でたたずむ男だけは、時の経過から見放されたような気分になっていた。
何処にでもあるような、小さくて薄汚い店だった。照明は暗く、床や壁には数年分の埃がこびりつき、小さな窓からはセピア色の陽が微かに差し込んでいた……ノベライズ版『デスペラード』より
なお、脚本しかなかった『デスペラード』は日本のみでノベライズ化。手掛けたのはこのコラムを書いている中野充浩。そのままだとわずか数十ページの物語になってしまうため、映画で登場する少年ニーノの視点を独自に拡大。語り手となってもらい、少年の成長や町の人々の生活、流れ者マリアッチの悲哀を伝達する役目を与えた。
ロバート・ロドリゲスの“マリアッチ3部作”はこの後の『レジェンド・オブ・メキシコ』(2003年)へと続いていく。
オープ二ングシーンはアントニオ・バンデラスが歌う「我が心のモレーナ」
タランティーノ出演シーン
『デスペラード』
ノベライズ版『デスペラード』(中野充浩著)
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*日本公開時チラシ
*引用・参考/『デスペラード』(中野充浩著/ソニー・マガジンズ)、パンフレット
*このコラムは2017年8月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
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