『ニュー・ジャック・シティ』(New Jack City/1991)
失業者の数が急増……先月は20万人が職を失いました……生活困窮者の数が200万人に……現在、貧富の差が最悪の状態……格差が拡大……高所得者の収入は3%増えましたが、低所得者の収入は減りました……7歳の少年が射殺されました。麻薬絡みの事件です……国家財政の赤字が2210億ドルに……
映画『ニュー・ジャック・シティ』(New Jack City/1991)はこんなアナウンスで始まる。アメリカでは30年も前のこととは言え(より悪化しているが)、日本ではまるで現在進行形の状況のようだ。
1991年春、全米の約860館で封切られたこの映画は大ヒット。カリフォルニア州オークランドの麻薬王フェリックス・ミッチェルの実話をベースとしているが、舞台をニューヨークに変更。悪の華クラックに手を染めた男の歪んだカリスマ人生、その身勝手な言動に翻弄される取り巻きの仲間、彼らを追う刑事たちの執念、敵対するイタリアン・マフィア、ドラッグ取引の様子や麻薬患者の悲惨な姿などを描いて大きな話題となった。
20年代の禁酒法時代と現代は呼応していると思う。20年代のギャングたちを描く時に酒がついてまわるように、90年代のギャングを語るにはドラッグは必要不可欠なものだ。(マリオ・ヴァン・ピーブルズ)
主演は、ストリートギャングから麻薬王へと君臨するニーノ役にウェズリー・スナイプス。彼を執拗に追う刑事スコッティー役にアイス-T。アイスは当時、ギャングスタ・ラッパーの草分けとして人気絶頂で、麻薬王以上のチンピラぶりに妙なリアリティを醸し出した。監督はこれがデビュー作となるマリオ・ヴァン・ピーブルズ。パブリック・エナミーのフレイヴァー・フレイヴや歌手のキース・スウェットらがカメオ出演した。
ニュー・ジャック・シティとは、黒人のスラングでニューヨーク・シティのこと。“ニュー・ジャック”は、脚本を担当したバリー・マイケル・クーパーが<ビレッジ・ヴォイス>誌で生み出した新語で、都市のストリートライフを支配する新しい雰囲気/風潮を表現する言葉として使ったのが最初。
ゲットーから脱け出すためには何か秀でたものがなければダメだ。マイク・タイソンのようにボクシングが強いとか、ホイットニー・ヒューストンのように歌がうまいとか、もし何もない奴は軍隊に入るしかない。そんな状況の中で子供たちはドラッグに手を出すしか道がなくなってしまう。今のアメリカの社会の仕組みを浮き彫りにしたかったんだ。(マリオ・ヴァン・ピーブルズ)
『ニュー・ジャック・シティ』はドラッグが単なる肉体や精神ではなく、人間性や人間関係を破壊してしまう様子をリアルに描き出した。同時期のスパイク・リーが人種差別の描写に拘ったのに対し、監督は深刻なドラッグ問題を世界に伝えたかったという。
映画の最後にはこんな言葉が綴られる。
この映画はフィクションた。だが“ニュー・ジャック・シティ”はフィクションではない。それはどのアメリカの都市にも存在する。私たちがクラックやその他のドラッグ問題に対し自ら立ち上がらなければ、中身のないスローガンや前提ばかりを振り回すのではなく、人間を精神的破滅に追い込むこの恐ろしい凶器の実態を検討することから始めなければ、ニュー・ジャック・シティは永遠に栄え続け、私たちはいつまでもその凶悪な地平線の影に身を潜め、嘆息するほかないのだ。
なお、アイス-Tやガイ、カラー・ミー・バッドや2・ライヴ・クルーらが参加したサウンドトラックも大ヒット。そして『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)から始まったブラック・ムービー隆盛の兆しは、本作や『ボーイズン・ザ・フッド』(1991)、『ジュース』(1992)などへ繋がっていく。
予告編
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*日本公開時チラシ
*参考/『ニュー・ジャック・シティ』パンフレット
*このコラムは2017年9月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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