『スーパーフライ』(Super Fly/1972)
タイトルを聞くと、すぐに音楽やスコアを手掛けたアーティストが出てくる映画がある。例えば『死刑台のエレベーター』ならマイルス・デイヴィス。『パリ、テキサス』ならライ・クーダー。『ブレードランナー』ならヴァンゲリス。『デッドマン』ならニール・ヤングといったように。あの音一つで、映画全体のムードを作ってしまうような音楽。
今回の『スーパーフライ』(Super Fly/1972)なら、もちろんカーティス・メイフィールドだ。映画は『黒いジャガー』(こちらはアイザック・ヘイズ)と並ぶ1970年代前半の“ブラックスプロイテーション”を代表する傑作。
“ブラックスプロイテーション”とは、黒人による黒人のための映画であり、公民権運動やニューシネマを経たことで生まれたジャンル。それまでの道徳劇の中に出てくるような優等生的な黒人より、都市部の貧民街に生きる黒人の姿をリアルに描こうとしたもの。よって犯罪や麻薬といった過激なものが多いが、内容がどうであれ、黒人としての誇りがメッセージとして込められているのが特徴。『スウィート・スウィートバック』(1971)がその先駆けと言われている。
『スーパーフライ』は、スタッフもキャストも、資金源もすべてが黒人の手によるもの。監督は『黒いジャガー』を手掛けたゴードン・パークスの息子。映画に出資した18人の中には、投資家、経営者、医者から売春宿の主人や女将、麻薬の売人までがいたという。まさにハーレム社会の縮図だ。
低予算だったのでほとんどがノーギャラで、街頭でのゲリラロケとなったらしいが、それゆえにフィルム全体に強烈な色気と体臭が漂うことになった。カーティス・メイフィールドのサントラ盤はビルボード総合チャートで4週に渡って1位に輝き、「Superfly」「Freddie’s Dead」もトップ10入り。
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なお、90年代になってスパイク・リーらのブラックムービー、あるいはLAのギャングスタ・ラップが一大ムーヴメントを巻き起こすが、『スーパーフライ』は映画・音楽の両面でこの動きに多大な影響を与えた。
舞台はNYのハーレム。麻薬売人のプリースト(ロン・オニール)が、手持ちの30万ドルで30キロのコカインを仕入れ、4ヶ月で100万ドルの金に変え、恋人と新天地と自由を求めて、どうしようもない世界から脱出するというもの。そこには仲間の裏切り、黒幕となる警察の汚職がある。
映画で対照的な二つのセリフを見つけた。プリーストは当初の目的を忘れ、白人組織に雇われる立場になった相棒に言う。「一生、奴らの言いなりになるぞ。利用されて殺されるのがオチだ」。するとこう言い返される。
ずっと誰かに利用されてきたんだ。白野郎の言いなりで何か悪い? 喜んで飼われてやるさ。腐るほど金を手にできるんだ。オレは黒人の王子様だ。これが現実さ。殺されてもこれしかできねえ。奴らに消されないよう、うまく立ち回るまでだ。
しかしプリーストは誇りを失わない。ラストで放つ一言が熱すぎる。
白豚の言いなりにはならねえよ。オレに指一本でも触れたら、お前は終わりだ。
第91回アカデミー賞が間もなく発表される。さて、『ブラック・パンサー』やスパイク・リーの『ブラック・クランズマン』の動向は?
予告編
カーティス・メイフィールドによる主題歌
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*日本公開時チラシ
*参考・引用/『スーパーフライ』DVD特典映像、パンフレット
*このコラムは2019年2月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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