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TAP the SCENE

パリ、テキサス〜再会と別離と放浪を描くロードムービーの最高峰

2016.09.07

深く愛を失った男がいる。仕事や金、家族や友人すべてを捨て去って、男は独り旅に出る。情報も時間も関係のない場所へ。傷だらけの心に刻まれた想い出だけを背負って。その果てには何があるのか?

──こんな放浪体験をしたことがある人がいれば、映画『パリ、テキサス』(PARIS,TEXAS/1984)はきっと特別な意味を持つことになるに違いない。でも多くの人は、現実や生活のしがらみで実行を断念することだろう。
放浪には勇気と覚悟が必要、と言うのは多くの人の感覚で、実際に移動する人にとっては必然な出来事に過ぎない。しかしどちらにせよ、孤独な魂は深く愛を失った男に影のようにつきまとう。まるでタフに生きていくための試練みたいに。

監督は『都会のアリス』『まわり道』『さすらい』といった本物のロードムービーを作り続けてきた映像作家ヴィム・ヴェンダース。イメージとなった原作は俳優/劇作家で知られるサム・シェパードの著作『モーテル・クロニクルズ』。そして音楽はこの人以外は考えられないという、さすらいのミュージシャンであるライ・クーダーが担当した。
ストーリーも音楽もキャスティングも撮影も何かもかもが静寂の魅力と哀しみの美学に貫かれていて、カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールを獲得。ロードムービーの最高峰として知られる永遠の名作となった。

撮影前の1983年の暮れ。ヴェンダースはカメラ片手に初めてのアメリカ西部を2〜3ヶ月間、旅して回った。リサーチやロケハンと言うより、それはヒューストン、ロサンゼルス、二ューメキシコ、テキサス、アリゾナといった光をとらえるための旅だった。土地特有の風景に対する理解を深め、感性を研ぎ澄ましておきたかったのだ。彼はこれが与えられた最後のチャンスだと思って、膨大な数の写真を撮り続けた。「アメリカ西部は何かが終わり破滅していく場所なんだよ」。

物語はテキサスの荒野をさまよう男、トラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)の姿から始まる。ウォーターバッグの水が切れて、たまたま辿り着いた小屋でそのまま倒れてしまう。所持品から連絡先が判明して、ロサンゼルスから弟が身元を引き取りにやって来る。トラヴィスは記憶をなくしたかのように口も利かない。ただ一言「パリ、テキサス」とだけ呟く。そこはフランスのパリではなくテキサス州の荒地の名前であり、トラヴィスは昔そこに通販で土地を買っていたのだった。

4年間の失踪と放浪は、弟夫婦にとっては兄の死同然であり、トラヴィスの一人息子である幼いハンターを我が子同然に育てていた。再会を果たす親子だが、その距離は遠かった。しかし、昔の8ミリフィルムやハンターの小学校の送迎を繰り返すうちに、父と子の関係が蘇る。いつまでも居候の身であるわけにはいかない。そんな時、別れた妻ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)が毎月ハンター宛に送金してくる事実を知る。それはテキサス州ヒューストンの銀行からだった。

トラヴィスにとっては別れた妻、ハンターにとっては母親を探す旅が始まる。子はその道中で父の心の傷を知る。ある昼下がり、銀行でジェーンを発見して車で尾行する二人。ジェーンは怪しげなビルに入って行く。トラヴィスが見たのは、マジックミラーで仕切られた個室。そこは客側からしか女を観ることのできない覗き部屋のようなアダルトサービスだった……。

覗き部屋でのトラヴィスとジェーンの会話シーン。「愛し合っていたある男と女の話」という語りで、荒れた結婚生活や愛の喪失、男の放浪の理由を口にしていくトラヴィスに、それがまさか自分たちの話だとは夢にも思っていないジェーン。二人が住んでいた「トレーラー」という言葉に、見えない鏡の向こう側にトラヴィスがいることを悟る瞬間は、映画史に残る名シーンだ。

なお、ヴェンダースはこの映画でライ・クーダーと初めて仕事をした。ライはサウンドトラックに取り組む際、映画のラフカットをじっと見つめることから始めたという。

確かなフィーリングをつかんで音が聴こえて来るまで、じっとその時を待つ。映画というのは、まずその映画全体のムードを象徴するような場面から始まるものなんだ。僕はそれを読み取り、コードに置き換えてみる。『パリ、テキサス』の場合はEフラットだった。あの冒頭のシーンだけで何を語りたい映画なのか、すぐに分かった。トラヴィスが独りで歩いているシーン、あれがあの映画のすべてなんだ


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ライ・クーダーという風景──スライドギターの旅愁

映画のオープニング

エンディングで流れるのは「Dark was the Night」

♪ Paris, Texas


『パリ、テキサス』

『パリ、テキサス』


*日本公開時チラシ
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*このコラムは2014年11月26日に初回公開されたものに一部加筆しました。
*参考文献/『Switch』1988年4月号、8月号

この機会にぜひお読みください!
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