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都会のアリス〜チャック・ベリーも出演したヴィム・ヴェンダース伝説のロードムービー

2023.05.16

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『都会のアリス』(Alice in den Städten/1974)


ヴィム・ヴェンダース監督の記念すべきロードムービー第1作として知られる『都会のアリス』(Alice in den Städten/1974)。“ロードムービー”というたまらない響きは、ここから始まったと言ってもいい。のちに自身のプロダクションを「ROAD MOVIES」と名付けたことからも分かるように、このジャンルはヴェンダース映画の代名詞となった。

前作『緋文字』について、ヴェンダースは「完全な失敗作」と吐き捨てている。性に合わない歴史映画に手を出したことは、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手であるヴェンダースから自信を奪ってしまった。

映画は必ずしも自分に合った仕事ではない。今やっていることは、恐らく間違ったジャンルの映画作りだと思ったりもした。やることなすことうまくいかなかった。


だが、唯一の収穫もあった。青年リュディガー・フォーグラーと少女イェラ・ロットレンダーの二人が出演するシーンに何か閃くものを感じたのだ。そして「車やガソリンスタンド、テレビや電話ボックスの登場しない映画はもう作らない」と決意。「よし、この二人が出る映画を作ろう」

一つの考えから始まる映画はもう作るな。今度こそは人物から出発して自分自身の必然で作れ。と言い聞かせた。この映画が自分の仕事の、自分の職業の、自分の映画の始まりだという思いだけで、何かを成し遂げたいと思った。


映画作りはいくつかの要素がベースとなった。例えば、ポラロイドとアメリカ。ヴェンダースは以前、アメリカ旅行をしながら無数のポラロイド写真を撮影したことがあった。それは1分待ってから引き剥がせば写真が出来上がるというものだったが、映画の企画に入った頃、撮ってから次第に画像が見えてくる新機種ができたことを知る。ヴェンダースはさっそくポラロイド社に手紙を書き、特別に2台貸してもらった。

あるいはロック好きのヴェンダースが何度も聞き入ったチャック・ベリーの「メンフィス・テネシー」。これは最後まで聞くと、必死に電話をつなごうとしている相手が6才の少女だと分かる。ヴェンダースにはすでに映画の風景やそこで出逢う二人の姿が見えていたに違いない。

ストーリーを書き上げたヴェンダースは再度アメリカに渡るが、出向いたプレス試写会である“事件”が起こる。ピーター・ボグダノヴィッチ監督の『ペーパー・ムーン』を観て、余りにも自分が書いた内容とそっくりだったため驚愕。ショックは大きく、製作を断念しようとさえ思った。

しかし、そんな噂を知ったサミュエル・フラーが若い映画作家を救う。自分ならこう作ると語ってみせて、「ストーリーなど無限にいくらでもできるんだ」と励ましてくれたのだ。結果、後半部分を書き直すことによって、脚本はよりヴェンダース色を増していった。

撮影は1973年8〜9月、モノクロ16ミリで行った。カメラのロビー・ミューラーをはじめ、この後に続くロードムービー『さすらい』や『パリ、テキサス』に欠かせないクルーが初結集。オールロケでの撮影自体が映画と同じように旅路となる。寡黙な主人公は孤独だが、物語はどこか優しさに包まれている。そんな独自のスタイルが完成した。「僕は『都会のアリス』で初めて天職というものを見つけたんだ」

車でアメリカ事海岸の町を移動し、モーテルに泊まり続けるドイツ人のフィリップ・ヴィンター(リュディガー・フォーグラー)は、出版社から依頼されたアメリカ旅行記を一行も書けずにいる。金も底をつく寸前だ。仕方なく車を売り払い、ニューヨークからドイツに帰国しようと諦める。

航空会社でチケットを手配しようとするものの、ドイツは管制塔のストライキ中で直行便がない。翌日発のアムステルダム経由で飛ぶのが一番早いと言われる。そこで出逢ったのがドイツ語しか話せないリザとその娘アリス。頼られたフィリップは母娘と同じホテルに宿泊する。だが翌日、リザの姿はなく書き置きだけがあった。

先にアリスを連れてアムステルダムへ発つフィリップ。ところが約束の日になってもリザは一向に現れない。そこでアリスの記憶だけを頼りに祖母の家を探す旅に出ることになる。分かっているのはドイツのどこかだということ。こうして二人の旅が始まっていく……。

アリスに出会う前のフィリップは、自分を写真も撮るルポライターで旅人だと思っている。出逢って間もなく、彼はアリスが自分よりも旅を重ねた旅人だと気づく。アリスは初めからオン・ザ・ロードなんだ。


音楽はCANが担当。ジュークボックスから流れるキャンド・ヒートの「オン・ザ・ロード・アゲイン」やフィリップが海岸で口ずさむ「渚のボードウォーク」など音楽も風景の一部となっている。チャック・ベリーのコンサートシーンも登場。演奏されるのはもちろん「メンフィス・テネシー」だ。


予告編


チャック・ベリーのコンサートシーン







*日本公開時チラシ

*参考・引用/『都会のアリス』パンフレット
*このコラムは2017年7月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
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