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キース・エマーソン27歳〜ELPの成功、高額な収入と裏腹に増してゆく自分への違和感

2025.03.10

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1970年、当時26歳だったキース・エマーソンは、元キング・クリムゾンのグレッグ・レイク、アトミック・ルースターのカール・パーマーとエマーソン・レイク・アンド・パーマー (ELP) を結成する。

同年の11月、著名なバンドで名を知られたメンバーが集結したELPのデビューアルバム『Emerson, Lake & Palmer』が、リリース直後に全英チャート4位、全米チャート18位を獲得。翌1971年の5 月にリリースした2ndアルバム『Tarkus』では、さらに注目を集め全英チャート1位、全米チャート9位に輝く快挙を遂げる。

その年の1月から、ELPはアルバム『Tarkus』をレコーディングするためのリハーサルをスタートさせていた。2月からは全英ツアーが行われ、3月26日にはイギリスのニューキャッスル・シティー・ホールでライブ録音が行われた。

4月にはアメリカ公演、そして5月には2ndアルバム『Tarkus』をリリース。ELPの人気が高まるに連れて2枚組の海賊盤(ライブ録音)が出回るようになる。事態を憂慮したELPサイドは、同年の10月に海賊盤を市場から回収し、11月(アメリカでは翌年1月)にライブアルバム『Pictures at an Exhibition(展覧会の絵)』をリリースする。

同作はライブ盤にもかかわらず全英チャート3位、全米チャート10位、そして日本のチャートでは堂々2位を獲得。当時、評論家のクリス・ウェルチはイギリスの音楽誌『メロディー・メーカー』で、同作をこんな風に絶賛している。

「今年度のアルバムの中でこれは最高傑作と言えるだろう。音楽もさることながら、これは私の知る限り最も素晴らしいライブ録音がなされている。ELPのサウンドと機材の数々は、それ自体が高音質を求めるファンの夢を叶えるものなんだ」



キース・エマーソンは、この『Pictures at an Exhibition(展覧会の絵)』を発表したタイミングで27歳を迎えている。彼は当時のことを鮮明に憶えていた。

「あれはちょうど息子のアーロンの1歳の誕生日を祝うためにツアーからイギリスに戻った時だった。11月26日にはアメリカのマディソン・スクエア・ガーデンでの公演も決まっていて毎日が忙しい時期だったよ。1stアルバムと2ndアルバムが英米共にゴールドディスクになって、僕には自分の家族全員をツアーに連れて行けるぐらいのお金ができた。だから僕は妻と子供達、そして両親をニューヨークに同行させることにしたんだ。それまで一生懸命音楽に取り組み、働いてきた成果を家族みんなで祝いたかったんだ」


マディソン・スクエア・ガーデンでの公演は、チケット発売開始から4時間で完売し、本番も大盛況に終えた。キースは家族と共に高級ホテルに宿泊し、リムジンに乗り、豪華な食事を楽しんだ。

帰国後、ELPは早くも新作アルバムの制作に取り掛かることとなる。年明けには初となる日本ツアーも計画されており、メンバーは多忙を極めていた。

「あの当時、僕たちのステージは益々派手なものになっていった。かと言ってメディアが大袈裟に取り上げたみたいに“劇的”になっていったわけではない。化粧をしたり派手なパフォーマンスをするわけではない。僕たちならではの楽器や機材を使って、ELPの音楽を極めたかったんだ」


27歳となった彼は、イギリスの田舎に邸宅を購入した。ロンドンまで車で2時間かかる東サセックス州にあったその家は、彫刻のオブジェで飾られた庭園と、4つのパドックからなる26,300平方メートルもの土地に囲まれていた。そんな豪邸に住みながら、彼はどことなく自分に対して違和感を感じていたという。

「家の豪華な正面玄関は、この茶番劇の一切を象徴しているかのようだった。最高級のコニャックをすすりながら、僕は“領主”を演じ、完璧な父親、完璧な夫になろうとしていた。それはプレッシャー以外のなにものでもなかった。僕はその責任の重さから、次第にコニャックのボトルを手放せなくなってい。」


1972年の6月、ELPのスタジオ録音3rdアルバム『Trilogy』がリリースされ、全英チャート2位、全米チャート5位、日本のチャート4位を獲得する。発売に併せて組まれた世界ツアーには日本公演も含まれており、7月22日に後楽園球場で、24日には阪神甲子園球場で熱狂的なライブを展開した。

「“日の出ずる国”の空港に降り立ったとき、僕たちはまるでビートルズのように迎えられた。おそらく1000人くらいの女性が空港の到着口で叫んでいんじゃないかな。公演までの数日間は取材と“ファンの集い”が連日行われた。ファンやレコード会社の担当者と一緒に野球をしたり、ソニーの工場を見学したり、歌舞伎を観に行ったり、ある晩は泡だらけのマットレスの上でサービスを受ける日本の風呂屋にも連れて行かれたよ」


その来日の際、彼は日本のファッションデザイナー、山本寛斎と出会い、友情を深めている。70年代の山本と言えば、デヴィッド・ボウイのステージ衣装を担当し、ロンドン、パリ、アメリカでもショーを行うなど国際的なデザイナーとして活躍の場を広げていた。山本はキースを自宅にまで招き、日本の家庭料理を振舞ったという。

「それまでの僕のステージ衣装は、ちょっと変わった素材の服や太腿まであるブーツを履くだけでよかったが、山本寛斎に会ってからはすべてが変わったよ。彼のデザインは日本の伝統や歴史が感じられるものだった。そしてそれらの服をロックンロールの舞台でどう魅せるかを彼は常に考えていた」


ELPの成功、目まぐるしく過ぎてゆく多忙な日々、高額な収入と裏腹に増していく自分への違和感。27歳の彼は“日の出ずる国”の人や文化に触れ、何を思ったのだろう。


<引用元・参考文献『キース・エマーソン自伝』キース・エマーソン(著)川本聡胤(翻訳)/ 三修社>


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執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
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