預言者が言葉を記した壁は
そのつなぎ目に亀裂が入り
死の武器には
太陽が煌々と照りつける
誰もが悪夢と夢に引き裂かれる時
月桂樹の花輪を手向ける者はなく
ただ静寂が叫び声をかき消すだろう
1969年10月10日に発表された、キング・クリムゾンのファースト・アルバム『キング・クリムゾンの宮殿』は、またたく間にヒットチャートを駆け上がり、ビートルズの『アビーロード』(それはビートルズ最後のスタジオ録音アルバムである)を抜き去った。ロックの黄金時代は、ひとつの節目を迎えていた。
『キング・クリムゾンの宮殿』に収録されている「エピタフ」は、シングルカットされた作品ではないのだが、その叙情的なメロディも相まって、クリムゾン・ファンのみならず、多くのリスナーに愛されてきた。そして、日本の歌謡界でも。
1969年といえば、佐良直美が「いいじゃないの幸せならば」でレコード大賞を獲得し、水前寺清子が「三百六十五歩のマーチ」をヒットさせた年だが、1970年代に入ると、「エピタフ」は様々なアーティストにカバーされるようになる。
たとえば、フォーリーブス。たとえば、西城秀樹。そして何といっても、ザ・ピーナッツ!
彼らは、歌いやすい日本語の訳を歌ったのではない。オリジナルの歌詞のまま、アレンジもさほど変えずに歌ったのである。
ザ・ピーナッツのハーモニーが上記の歌詞を歌い上げる時、オリジナルとは違った不思議な清らかさと恐ろしさを感じる。「エピタフ」の歌詞はこう続く。
運命の鉄の門の狭間に
時の種子は蒔かれ
知りし者と知られし者の行為が
水を蒔く
誰もルールを決めなければ
知識は死の友となる
全人類の運命は
愚か者の手に
委ねられているようにしか見えない ♪
「運命の鉄の門」は、資本主義と共産主義という右と左の扉だ。もちろん、冷戦を背景にした核の恐怖といった時代背景はあるだろう。そんな時代のムードに、日本の音楽界がシンクロしたのかも知れない。
だが、この曲のボーカルをつとめ、クリムゾン脱退後には、エマーソン・レイク&パーマーを結成することになるグレッグ・レイクは次のように語っている。
「エピタフは基本的に、狂った世界の中で混乱することを歌ったものだ。キング・クリムゾンは不思議なほど、予言的な世界観を歌にする才能があった」
そして「エピタフ」はコーラスへと続く。
私の墓碑銘は、混乱
(中略)
傍観し、笑っていることもできる
だが明日、私は涙を流しているような気がする
だが明日、私は涙を流しているような気がするのだ ♪
「そしてこの曲の歌詞は」と、グレッグ・レイクは続けていう。
「書かれた時よりも、現代の方がよりメッセージの意味をもっているように思えるんだよ」
日本の歌世界が、海外とリンクしなくなってから、もうずいぶんと長い時が経つ。
*サムネイル画像は『クリムゾン・キングの宮殿』のインナージャケットより。
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