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「TAP the COLOR」連載第35回
「さすらい」から連想できるのは、「ロストラブ」「オン・ザ・ロード」「ロードムービー」「ハイウェイ」「モーテル」「ダイナー」「土埃」「荒野の風」「古い車」「人探し」……心の風景を旋律に変えてくれるのは、「孤高」と呼ばれる“本物”のギタリストたち。
ここでその代表格であるライ・クーダーの言葉を引用しよう。放浪する男のロードムービーの傑作として知られる、ヴィム・ヴェンダース監督『パリ、テキサス』のサウンドトラック・レコーディングに関してだ。
荒野を歩く男の心の中に流れている音楽を聴き取ろうとした。その為にまず風景を心に描き、土地の香りを想った。するとやがて音楽が聴こえて来る。その場の空気感に最も相応しいコードが鳴り始める。
そして旅に生きた“本物”の作家は、ライ・クーダーを特集する序文でこう綴った。
ライ・クーダーは長い旅を続けていた。
美しい音楽、古い音楽を求め続ける旅だった。
しかし、それは同時に、様々なものを失ってゆく道のりでもあった。
レコードはまったく売れず、クレジットカードもキャンセルされた。
電気も電話もガスも止められてしまった。
彼は家族の為に旅を中止せざるを得なくなり、映画の世界へと道を変えた。
しかし彼は、一番大切なもの、ブルースだけは失っていなかった。
──駒沢敏器(1961-2012) from Switch Magazine 1988
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ライ・クーダー『Boomer’s Story』(1972)
さすらいのギタリストと言えば、この人が真っ先に思い浮かぶ。スライドギターの“泣き”が染み込むように体験できる名盤。失意やロストラブの旅路の果て。そんなロードムービーの連れとして、いつもトランクに忍ばせておきたい一枚。これぞ、流れ者の物語。
ゲイリー・ムーア『Wild Frontier』(1987)
亡き盟友フィル・ライノットに捧げられた、母国アイルランド回帰の忘れ得ぬ名作。哀愁を帯びたドラマチックなバラードこそ、ゲイリーの真髄。そのキャリアはまさに旅人そのもの。2011年死去。「パリの散歩道」もいいが、泣きの旋律の極致「The Loner」は必聴。
ニール・ヤング『Tonight’s the Night』(1975)
歪んだ爆音ギターや素朴なアコースティックをはじめ、多彩なアプローチで有名なニール。次が予測できない人。前途多難なロックシーンを休みなく、何事にも動じずに歩み続けるタフさ。本作はバンド仲間の死に直面しながら、哀しみとアルコールの中で録音。
チャーリー・セクストン『Pictures for Pleasure』(1985)
ルーツミュージックを愛する本物のギター弾き少年が、レコード会社の戦略でアイドルとして売り出される悲劇。この時チャーリーは17歳。その後のキャリアは低迷。忘れられて生活も困窮したという。しかし2005年、男は静かに復活した……そんな物語の序章を本作は漂わせる。
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