ゲイリー・ムーアとフィル・ライノットに流れたアイルランドの血
僕はアイルランドで生まれ育ったんだ。その影響を生かして一つのアルバムを作りたかった。自分が今まで無意識のうちに受けてきた影響を前面に出して、これまでの僕のアルバムとはまったく違ったものを作り出したかった。
1987年、ゲイリー・ムーアは故郷アイルランドをテーマにした『Wild Frontier』をリリースした。80年代のヘヴィメタル/ハードロックが大ブームの中で速弾きの「ギター・クレイジー」と称えられていたゲイリーが遂に原点に立ち戻った。
彼自身、その何もかもがラウドなシーンでギター・ヒーローでいることを一度も快適と思ったことはなかったという。妥協のない精神、求道者として自己に対する厳しい姿勢が蘇ったのだ。
アイルランドで起こっている様々な問題を歌詞の題材にしたかった。ビデオ・シューティングがあって久々にアイルランドに帰ったんだけど、何ら解決していなかった。治安も良くなくて、街の中心地には戦車が停まっていて、その周りで子供たちが遊んでいるんだよ。それに加えて失業や教育問題もある。最近リリースしたアルバムがどれもアメリカ寄りの音楽性を持っているから、それから離れて自分を表現したかったんだ。
1954年4月4日、ゲイリーは北アイルランドのベルファストに生まれた。10歳の時に父親にアコースティック・ギターを買ってもらい、ジョン・メイオールのバンドにいたエリック・クラプトンやピーター・グリーンの弾くブリティッシュ・ブルーズに胸打たれた。
16歳でスキッド・ロウに加入するため、アイルランドのダブリンに移り住む。そこで出逢ったのが同じアイルランド人で、後にシン・リジィを始動することになるフィル・ライノットだった。
ダブリンのフォーク音楽を聴かせるようなパブで、フィルと知り合ったんだ。スキッド・ロウではロックをプレイしてたけど、いろんなバンドが近くで生活してたから、よくフォークやトラッド系のバンドも手伝ってたよ。僕らは狭いワンルームに一緒に住んでいた。ベッドを二つ置いたらいっぱいになってしまうような場所にね。
ゲイリーはその後、コロシアムⅡをはじめとする幾つかのバンドをさすらいながら、70年代を過ごしていく。その中にはシン・リジィもあった。1978年の『Black Rose:A Rock Legend』は彼らの最高傑作であり、アルバムの最後には「ダニー・ボーイ/ロンドリデリーの歌」などアイルランド民謡4曲がアレンジされた共作が収録された。
同時期には初のソロアルバム『Back on the Streets』もリリース。あの有名な「Parisienne Walkways(パリの散歩道)」や「Spanish Guitar」も録音されている。2曲ともフィルと作った美しい作品だ。
1985年の「Out In The Fields」では、故郷ベルファストの紛争で切り裂かれた街並み、悲しみと怒りに耐えながら暮らす人々の想い、戦争の愚かさと反戦を伝えた。そして今度も一緒に歌ってくれたフィルは、翌年に36歳の若さで死去。
『Wild Frontier』はフィルに捧げられたアルバムでもあった。泣きのギターが印象的なスローバラード「The Loner」、フィルとのデュエットを思い描きながら作ったというタイトル曲などが並ぶ中、クライマックスの「Johnny Boy」には故郷の風景と盟友へ別れの響きが流れていた。
僕がそれなりにソングライターとして今も活躍していられるのは、フィル・ライノットのおかげだよ。彼からの影響で良い曲作りが身についてきたんだと思う。
「Johnny Boy」
「The Loner」
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*参考・引用/『ヤング・ギター・インタビューズ:ゲイリー・ムーア』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、「ロック・ギター・トリビュート:Memories of Gary Moore」(伊藤政則著/シンコーミュージック・エンタテイメント)
*このコラムは2017年2月に公開されたものを更新しました。
(ゲイリーのその後の物語についてはこちらのコラムをお読みください)
ゲイリー・ムーア〜“泣きのギター”でBLUESを響かせた孤高のギタリスト
(フィル・ライノットについてはこちらのコラムをお読みください)
フィル・ライノット〜英雄になった褐色のアイルランド人ロッカー
【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
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