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「TAP the COLOR」連載第107回
ミュージシャンに限らず、傷ついた心を救済したり、優しい気持ちにしてくれる人には、損失や敗北を受け入れることのできるタフな心が備わっている。栄光や勝利だけを追求する姿勢は、結局は「自分にしか心が向いていない」人がすることだ。人生は苦さを知ってこそ、甘さが分かる。孤独の風景で生きたことがあるからこそ、人との交流の温かみ、思いやりが分かるようになる。
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トム・ウェイツ『The Heart of Saturday Night』(1974)
この人ほど、今回のタイトルに相応しい人はいないだろう。特にデビューした1970年代にリリースした一連のアサイラム時代は、場末の風景やそこに集う人々の心を歌った作品群だった。本作はセカンドで、まだ独特の声が一般の聴き手にも馴染みやすかった頃の録音。その敗北と損失を受け入れた余りの場末感に、当時の恋人からは哀しみに浸りすぎているという言葉も。それでもやはり、トム・ウェイツの世界は多くの男たちの拠り所なのだ。
クリス・クリストファーソン『Silver Tongued Devil & I』(1971)
敬愛するジョニー・キャッシュの自宅に、ヘリコブターを使って自作曲を売り込んだ経験もあるクリス・クリストファーソン(こちらのコラムで紹介)。カントリーのスターとなってからは、映画でも活躍。バーブラ・ストライサンドと共演した『スター誕生』は、孤独な魂を持つロックスターを演じて素晴らしかった。本作はセカンドで、スコセッシ&デ・ニーロの伝説的映画『タクシー・ドライバー』で、主人公が惚れた女にプレゼントする1枚として登場する。
ボビー・チャールズ『Bobby Charles』(1972)
ルーツ・ミュージックを辿る深い旅をしていないと、このアーティストと出逢うことはないだろう。ボビー・チャールズの初ソロ作。ニューオーリンズのR&Bのソングライターとして活躍後、田舎町ウッドストックに移住して録音した。もちろんザ・バンドの面々も参加。本当に音楽が好きで、心の底から演奏したり歌っているのが分かる。ジャケット写真も素晴らしい。
ゲイリー・ムーア『Back on the Streets』(1978)
さすらいのギタリストとして、ゲイリー・ムーアもその名を知られた人だった。クラプトン同様、バンドを渡り歩いて自分の居場所を探し求める過程で、この初ソロ作を録音。今ではフィギュアスケート・ファンにも広まった「パリの散歩道」は、本作がオリジナル。また、ボーナストラックとして、同じくフィル・ライノットがヴォーカルをとる「スパニッシュ・ギター」を収録。哀愁のメロディとそこに絡むギターこそ、ゲイリー最大の魅力だ。
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