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HYUKOHが生み出したアジアの新しいロック

2017.07.24

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新しいポップ・ミュージックは海外から入ってきたものが、その国の風土や文化と混ざり合った時に誕生する。
ビートルズの音楽も自分たちのバックボーンと、アメリカのロックンロールが混じり合って生まれた。
コンプトンの若者がヒップホップの歌詞に自分たちの生活を乗せたことでギャングスタ・ラップが生まれた。

そして今、韓国出身のバンドであるHYUKOH(ヒョゴ)が、新しいポップスを生み出そうとしている。
メンバー全員がまだ23歳という彼らは、韓国語でロックを歌うことによって、新しい音楽を作り出している。

HYUKOHの中心人物はギターヴォーカルのオ・ヒョクである。
彼は幼い頃から教会でバイオリンを弾いたり、ゴスペルを歌うなどしながら音楽に親しんできた。
そして中学3年生の時に歌を褒められたことがきっかけで、音楽の道を志すようになっていった。

オ・ヒョクが心うたれたのは、自国のもの以上に海外の音楽であったという。
2008年当時は韓国でYouTubeが普及し始めたことから、世界中の音楽にネットを通じて触れることができる環境が出来つつあった。
そんな環境にも助けられて彼は様々な音楽を聴き漁ったが、なかでもポール・マッカートニーやスティーヴィーワンダーに大きな影響を受けたという。

彼らのブルージーで切ないメロディやグルーヴ感は、HYUKOHの音楽にも通ずるものがある。

やがて彼自身も曲を作り始めて、20歳の時に「20」というアルバムを発表する。
楽曲制作のメンバーは彼一人であり、HYUKOHというバンド名は自分の名前「Oh-Hyok」をひっくりかえしたものだ。

しかし最初は一人で音楽を作っていたオ・ヒョクだったが、やがてソウルの弘大(ホンデ)地区でメンバーを集めて、バンドとしての活動し始める。
弘大は韓国の中でも、新しいカルチャーの発信地として知られる一帯だ。

そこで出会ったメンバーはみんなオ・ヒョクと同じように、ロックやR&B、ヒップホップなどをYou Tubeで聴き漁って育っていた。

同じように海外のポップスを聴いて育ったメンバーが4人集まったことによって、HYUKOHの楽曲やアレンジの幅は広がり、瞬く間に韓国中にその名前は広がっていった。

そして結成からわずか1年後の2015年、彼らの名は「Wi Ing Wi Ing」という曲で一躍有名になる。
この曲はポップスグループが中心の韓国の音楽チャートおいて、2か月にわたって上位に居続けた。

タイトルの「Wi Ing Wi Ing」というのは韓国で、羽虫の飛ぶ擬音として使われる言葉である。
世界の流れに取り残された自分を、虫に重ねて自虐的に歌うような歌詞はどこかレディオヘッドの「Creep」を思わせる。

ウィンウィンと その日暮らしも
哀れな自分を嘲笑うかのように遠くに飛んでいく
ビュンビュンと 回る世界も
僕を嘲笑うかのようにうごめき続ける
(和訳)

2010年代の韓国は雇用不安が深刻化し、若者の就職難が社会問題と化していた。
そんな時代の中で同年代のバンドが歌う厭世的な歌詞にはリアリティがあり、若者から絶大な支持を受けた。

HYUKOHはまさに、自分たちの生活をポップスのメロディに落とし込むことに成功したのである。

しかし、韓国語がわからない日本人の僕たちにとっても、HYUKOHの曲はどこか新鮮に響く。
オ・ヒョクの切ない声で歌われるブルージーなメロディ、韓国語にしかない語感と発音を乗せた曲、それらはどこの国のロックとも違う新しさを感じさせる。

その斬新さは国外でも大きな評判を呼び、彼らはその年の冬、ここ日本でもライヴを行った。
日本ではデビュー前だったにもかかわらず、チケットはすべて完売し、彼らの独自性は言語の通じない国でも支持され始めた。

そして今年、HYUKOHは初のフルアルバム「23」をリリースした。
韓国を代表するアーティストに育った彼らは、多彩な楽曲をこのアルバムに収めている。シンプルなコード進行で荒々しい演奏を見せる「Leather Jacket」や、美しいメロディとオ・ヒョクの声の優しさが響く「Tom Boy」など、欧米のアーティストと比べても遜色ない楽曲が並ぶ。

雄大なメロディで「昨日のことなど忘れてしまった(和訳)」と歌う「Wanli(万里)」は、彼らがさらなる新しい音楽を追求していくという宣言のようにも聴こえる。
今年の夏にアルバムを引っさげ来日する彼らは、欧米でのヒットを目標にしているという。
韓国語ロックという新しいポップスを携えて、世界で活躍する日はそう遠くないであろう。
HYUKOH『23』
トイズファクトリー

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