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思い出のタヒチ80「ハートビート」

2017.08.14

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ソング・ライティングの中心的存在で、ボーカルやギターを担当するグザヴィエ・ボワイエを中心に結成されたタヒチ80は、98年に本国フランスでデビュー。翌年発売の小山田圭吾選曲による『ラマ・ランチ・コンピレーション』で日本に紹介され、2000年4月にはビクターからアルバム『パズル』をリリース、最初のシングル「ハートビート」がヒットして注目を集めた。



 恋する胸の高鳴りを、そのまま素直に詞とメロディーにしたような「ハートビート」は、新鮮な柑橘類やよく冷えたサイダーのような爽やかさで、洋楽ファンの心をとらえた。そして筆者も、その「とらえられた」中のひとり。タヒチ80が『サマーソニック』に出演することがわかると早速チケットを手に入れ、8月6日の朝、新宿からバスに乗って会場の富士急ハイランドへ向かったのだった。

 この日のメイン・アクトはグリーン・デイ。他にはベン・フォールズ・ファイブやウィーザー、くるりなどがステージに立っており、前日5日の出演リストの中には、やはり初めての来日公演だったコールド・プレイや大御所ジェームズ・ブラウンが名を連ねている。それでも一番観たかったのがタヒチ80だったのだから、「ハートビート」がどれほど、この胸をハートビートさせたかわかっていただけるのではないかと思う。



 ビートルズに最も影響を受けているとグザヴィエが話すように、彼らの曲はどれもが耳になじみやすく、メロディーが美しい、ポップスの王道とも言えるもの。ビートルズがあれだけ素晴らしいメロディー・ラインを生み出してしまった以上、その影響を受けながら同じように名曲を編み出すのは至難の業と思えるが、オアシスのノエル・ギャラガーがそうだったように、新たな時代には新たな才能の持ち主が現れるんだなということをグザヴィエも実感させてくれる。

 『サマーソニック』でもその才能は遺憾なく発揮されて、ステージは期待通り楽しかった。事前に何度も何度も『パズル』を聴いていたから、当日は以前からよく知っていた友だちに会うような感覚さえあって、しかも演奏終了後には、会場の外を一般客のように歩くメンバーを見つけたりして(まだファンが殺到するほどの認知度がなかったってことだな)、さらに親しみが湧いたのを覚えている。

 「ハートビート」は今でも聴くし、口ずさむ。2年後に出たセカンド・アルバム『ウォールペーパー・フォー・ザ・ソウル』の中でも特に好きな「1,000 タイムス」や「ザ・トレイン」もそう。大好きで、いつも身近にあるから、懐かしくなんかならない。そして飽きたりもしない。ずっとハートビートが続いている恋愛のようなものだと思う(ただしこちらからの一方通行だけど…)。




 最近ネットでグザヴィエの写真を見たら、優しそうで品のある印象はそのままに、年齢相応の落ち着きを加えていた。だって初めて見た時から17年も経ったんだもんなぁ、そりゃこっちだって老けるわ…と、ため息をつきたくなったが、それでも「ハートビート」を聴くと一瞬にして気持ちはあの頃に戻るから、音楽の力って大したものだなとあらためて思う。




 ところでグザヴィエは今年5月にソロの新曲「ストックホルム・シンドローム」を公開した。聴いてみたらビートルズっぽさが増している。より原点に近付いて、純度が上がったということか。彼の作った音楽がエヴァー・グリーンであるのは、彼の心の中にエヴァー・グリーンなものがあるからだろうと感じた。いつまでも変わることなく、緑豊かな思い出の場所のような音楽を届けてくれると思うと、これから発表されるであろう彼のアルバムへの期待が大きく膨らんだ。
(文・寧樂小夜)

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