奥田民生が作る歌詞は、とらえどころがなく抽象的であることが多い。
あるインタビューで、歌詞について訊ねられた奥田が、「音が太くなると、言葉も太くしなければ聞こえない」と言っているように、音やメロディーとのバランスで言葉を選ぶのが奥田の作詞の秘密のようだ。また、作詞の方法については、共演した井上陽水からの影響も少なからず感じられる。
そんな奥田独特の抽象的な詞の世界を支持するファンも多いが、時々ストレートな歌詞を歌うこともあり、それらもまた聴く者の心に強く印象を残すのだ。
1993年にユニコーンを解散し、翌年にソロになってからの数年間にシングル曲としてリリースされた歌には、特にストレートで具体的な歌詞の歌が多い。ソロデビュー・シングル「愛のために」はミリオン・セラーを記録、その後も1995年の「コーヒー」や1996年の「イージュー★ライダー」、1998年の「さすらい」なども、同世代に共感を呼ぶストレートな内容の歌詞で大ヒットした。
「愛のために」に続くソロ第二弾のシングルとして、1995年にリリースされた「息子」も、父親の息子に対する思いを歌った歌詞が共感を呼び、当時コカ・コーラのCMソングにも起用されるなどして、大ヒットした1曲。

息子の態度に向けられる同性ならではの父親の眼差しと、必要以上に子供の事情に介入しない、さらりとした距離感がいい感じに描かれている。そして、心の中で息子へ愛情たっぷりのエールを送るのだ。
この歌は、もしかすると奥田自身の理想とする父親像であったのかもしれない。そして奥田民生はこの歌を、誰か特定の人の息子に向けてではなく、全ての子供達に向けて歌っているように感じられるのだ。
ところで、新学期を目の前にして、ひそかに心を痛めている子供はいないだろうか。できることなら、深刻になってしまう前に気づいてあげたい。
奥田民生が「息子」の中で描く父親の視点を持って、子供達の様子を見守ることができたらと思うのだ。最後に、先日の新聞に寄せられた作家重松清のコラムより、一部を引用したい。
「子供のSOSを見逃すな」とよく言われる。だが、心の悲鳴は、往々にして「SOSには見えない形」であらわれる。だからこそ、おとなは想像力を持たなくては。本人がうまく伝えきれない痛みをすくい取らなければ。自戒を込めて思う。「自分」と「自分以外の人」に架かる橋、それこそが想像力なのだから。
「どうせ自分の気持ちはわかってもらえない」と子どもに言わせたら、おとなの負けなんだぜ。


*このコラムは2017年8月に公開されました。
引用元:2017年8月12日の神戸新聞 重松清コラム「暦の余白に」より
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