2010年代、Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスは、音楽の発信の仕方を大きく変えた。
それまで各国やジャンルごとに区別されていた音楽が、同じ土俵の上で聴かれるようになったからだ。
今や欧米の若者が日本の音楽を聴くことも、ロックやヒップホップ、レゲエが同じプレイリスト上で聴かれることも当たり前になっている。
アーティストの出身国やジャンルも関係なく「カッコいい」ものが聴かれる時代になりつつあるのだ。
そんな時代に現れたのが、10代から30代の男女8人組のバンド、Superorganism(スーパーオーガニズム)だ。
年齢や性別だけでなく、国籍もイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国など全く異なった彼らが鳴らすのは、様々なジャンルのエッセンスを吸収した新しいポップミュージックである。
Superorganismは2017年、イギリス出身のギタリストのハリーを中心にして結成された。
彼は元々ジ・エヴァーソンズというポップパンクバンドのメンバーで、2015年には日本でもツアーを行っている。
そのときの彼らによるライヴを観ていたのが、当時15歳だったオロノという名の日本人の少女だった。
YouTubeでエヴァーソンズを知ったオロノは東京での公演に欠かさず行き、ライヴ後にはメンバーと話もしたという。
幼い頃から語学が堪能だったオロノはすぐに打ち解け、日本の観光案内まで引き受けている。
ハリーは帰国後もオロノのSNSをチェックし、そこにアップされる絵やカバーの音源から、彼女のただならぬ才能を感じ取っていた。
翌年、彼はエヴァーソンズの四人のメンバーと共に新しいプロジェクトを始めるにあたって、ヴォーカルとしてオロノに声をかけ、楽曲制作が始まる。
そこにハリーの音楽仲間たちやSNSで交流を深めたミュージシャンたちも加わり、新たな音楽のエッセンスが付け足されていく。
その共同体がSuperorganismという一つのバンドになり、活動を本格的にスタートさせた。
まさにインターネットやSNSという、現代のテクノロジーによって結成された異色のバンドなのだ。
彼らは楽曲を作る時、あえてメインとなるソングライターを決めないという。
それは8人全員で一つの曲を作り上げるという意思の表れだ。
メンバーの生まれた国や年代はバラバラであり、聴いてきた音楽も全く異なる。それらをひとつにまとめ上げるのは決して容易なことではないが、彼らはそれぞれの個性を損なうことなく、巧みに一つの楽曲に落とし込んでいった。
やがて彼らは、より密にメンバーの個性を音楽の中に取り入れるため、全員がロンドンにある一つの家に住むようになる。
それはアンディ・ウォーホルが「ファクトリー」という一つの場所で様々な芸術家と関わりながら、ポップアートを作り上げたのと似た試みであった。
その過程の中で生まれたのが2017年にデビュー曲として発表された「Somethig For Your M.I.N.D」だ。
この楽曲はロックやヒップホップ、シンセポップ、R&Bなどの一つのジャンルに分類できないような音楽が鳴っている。
気だるそうに歌うオロノの声や、情緒や広がりを感じるメロディに、シンセサイザーやギターのサイケデリックな響き、そして随所にサンプリングされる生活音。
さらに、それぞれのメンバーが影響を受けたアーティストのエッセンスや、頭の中で生まれた音を一つの曲に詰め込むことによって、誰にも似ていない、彼らだけの音楽を生み出している。
国やジャンルを超え、新しい音楽を作り出している彼らが意識しているのは、「ポップミュージック」であることだという。
「ぼくらは、人々をもう一度繋ぎあわせるようなポップミュージックを作りたいんだ。
ポップミュージックっていうのは、その人が生きている世界、生きている時代そのものを反映している。時にはそこから逃げ出したくもなるよね。だからこそ大切なんだと思う。」
(WIRED 2018.2.28 インタビュー ハリーの発言より)
2018年に発表したデビューアルバム『SUPERORGANISM』は、そんなジャンルレスなポップミュージックが収められ、彼らの底知れぬ可能性を世界に知らしめた。
その姿は1960年代に革新的な楽曲や制作方法を生み出したビートルズとも通じるものがあるように思える。
ビートルズの革新的な音楽が世界の音楽のスタンダードになったように、彼らの楽曲もいつか世界のスタンダードになるのかもしれない。