ナチュラルでアコースティックなサウンドに、少しジョニ・ミッチェルを思わせるような歌声が魅力のシンガーソングライター、レイチェル・ダッドをご存知だろうか。
過去にエド・シーランやジェイク・バグ、ジェイムス・ベイなども見出されたという、英BBCラジオが若き才能を発掘するプログラム「BBC Music Introducing」で取り上げられた、英国フォーク界の新星だ。
ギターだけでなくバンジョーやウクレレ、ピアノ、クラリネット、さらにはパーカッションまでもこなす、マルチ・インストゥルメンタリストでもあるレイチェル。
本格的に音楽活動を始めたのは、生まれ育ったウィンチェスターからブリストルに移り住んだ2004年からだ。
2008年頃より頻繁に来日するようになり、日本のアンダーグラウンド・シーンのミュージシャンと交流しながら、音楽活動を続けている。
彼女のパートナーであるICHIもまた、愛知県出身の日本人ミュージシャンだ。
ひとりサーカス楽団とも称され、様々な楽器をおもちゃ箱のような装置にセットして演奏するというユニークな彼の演奏スタイルは、NHKのアニメーション「おんがく世界りょこう」の主要キャラクターのモデルでもあり、楽曲提供もしている。
2014年にリリースされたレイチェル・ダッドのアルバム『ウィー・レゾネイト』は、アフリカのフィールド・レコーディングの作品からインスパイアされた、豊かなポリリズムが特色になっている。
プリペアド・ピアノや、自家製の木琴、タイプライター、マッチ箱、スティールパン、タップダンスのステップや手拍子など、様々な音でリズムが刻まれる。そして、レイチェル自身が妊娠中に録った、お腹の中の子供の心音までもがサンプリングされているという。また、ICHIによる実験的な創作楽器も、ハンドメイド的な色合いをさらに濃くしている。
レイチェル自身、手芸作家としても活動しており、“マグパイ”というブランドを手がけ、展覧会やワークショップなども行なっている。以前は来日時に、ライブ・ツアーをしながら展覧会も開催していたという。
身の回りのもので何かを作り、身の回りの音を使って音楽をつくる、そういったハンドメイドこそが彼女のスタイルなのだ。
大きく大地を蹴ってステップを踏み、身の回りの音や手拍子でリズムを刻む。誰もが自分の音、自分のリズムで息を合わせていく。「ウィー・レゾネイト=私たちは共鳴する」は、タイトル通り彼女のメッセージでもある。
レイチェルは自身の音楽を通して社会に問いかけ、多様性の尊重と自由を表現する。それらは柔らかでありながらも、芯が通っており、ある意味でプロテスト・ソングとも言えるのではないだろうか。
2018年5月には、最初の来日から10年を迎えたことを記念し、長らく廃盤となっていた2011年のアルバム『バイト・ザ・マウンテン』が再リリースされた。
この作品には彼女の家族や友人が登場し、彼らが歌う日本の童謡などを、フィールド・レコーディングしてコラージュしたサウンドスケープ「Sketchbook」がボーナストラックとして追加収録されている。それはまさにクラフト・フォークとして非常に興味深く、また聴いていてとても心地よい。
一年の半分を英国のブリストルで、半分を日本で過ごすというレイチェル・ダッドに出会えるチャンスは多い。
日本に来たときにはぜひ、彼女の音楽に直に触れて欲しいと思うのだ。
参考サイト:SMASHING MAG 2015年レイチェル・ダッドへのインタビュー、SWEET DREAMS PRESS、OTOTOYより