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高田渡の『イキテル・ソング』──トリビュート企画を手がけた、高田漣インタビュー 前編

2016.10.29

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フォークシンガー、高田渡がこの世を去って10年以上の月日が経った。この間に、世の中は大きく動いたが、高田渡の歌は今も普遍的に響くどころか、より一層と強いメッセージを放っているように思えるのはなぜだろう──没後10年を迎え、高田渡の長男であり、ペダルスティールやギターをはじめ、マルチ弦楽器奏者として第一線で活躍する高田漣の監修のもと、トリビュート企画が始動。レーベルを超えて選曲された『イキテル・ソング~オールタイム・ベスト~』と、高田漣が父・高田渡の楽曲をカバーしたトリビュート・アルバム『コーヒーブルース~高田渡を歌う~』が2作同時にリリースされた。
そこでTAP the POPでは4回にわたって、高田渡の魅力にあらためて触れる特集を展開。初回は、高田漣が父との想い出や音楽的に受けた影響、さらにはトリビュート企画に込めた想いを語っていくロング・インタビューの前編をお届けします。


【「特集・高田渡」は こちら

訊き手:佐藤剛
進行・構成:宮内健


──今回、高田渡のベスト盤『イキテル・ソング~オールタイム・ベスト~』と、漣さんによるカバー・アルバム『コーヒーブルース~高田渡を歌う~』の2作が同時リリースされるのにはじまり、全国各地を回るトリビュート・ライブの開催、さらには渡さんがデビュー前に書き記した日記をまとめた書籍『マイ・フレンド―高田渡青春日記1966-1969』の出版と、高田渡というフォークシンガーの魅力を再発見できる企画が一気に展開されることになりました。

高田「以前から、父が亡くなって10年という区切りで何か形にしたいと思っていて。また、父の歌を僕が歌ったアルバムを作るタイミングかなというのも、なんとなく考えていて……そうして、いろんな企画を進めて行く中で、リリースするなら父が以前作品を発表したレーベル〈ベルウッド〉から出そうとか、書籍を出版しようとか、個々の案件がひとつに集約していったんです」

佐藤「これまでお父さんが残してきた作品は、歌や言葉にフォーカスが合ったものが多かった。しかし、渡さんのベスト盤『イキテル・ソング~オールタイム・ベスト~』と、漣さんがカバーしたアルバム『コーヒーブルース~高田渡を歌う~』が2枚同時に出ることで、音楽のつながり方や広がり方、あるいは同じようでいてまったく違う部分なんかが、非常に鮮明に見えてくる。素晴らしい企画だと思いました」

高田「そうご指摘いただけるのはありがたいですね。ただ逆に捉えれば、父は詞の世界の人ってイメージが強かったので、今回のベスト盤を選曲するにあたって、音楽に振れてるものをなるべく選曲しようと思いましたし、僕のトリビュート・アルバムについては、今まで以上に言葉に重点を置いてみたところもあって。だから、ある意味で父と僕の素養をたすき掛けにしたような感じかもしれないですね」

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──ベスト盤『イキテル・ソング』は、高田渡さんの音楽にも、これほどカラフルなアレンジが施されていた曲があったのかと、新鮮な印象を覚えるリスナーも多いと思います。

高田「父の家で一緒に音楽を聴く時間は何度もあったんですが、実は、一般的に思われてる以上にいろんな音楽が好きな人なんです。アメリカのフォークソング一辺倒というよりも、ヨーロッパの民俗音楽だったり、キューバの音楽だったり、当時だとラテン・プレイボーイズ(*ロス・ロボスのルーイ・ペレスとデヴィッド・イダルゴ、プロデューサー・チームのミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクが結成したプロジェクト。1990年代後半に活動)とかすごく好きでしたね。それが自分の音楽にアウトプットとして出てくるかどうかは別にして、何でも聴く人でした。なので、自分が歌うトリビュート盤では、父と一緒に演奏してた頃の1曲1曲にまつわる思い出や、父が好きだったアレンジメントを自分なりに掘り起こして、演奏に反映させてみたんです」

──たとえば、どんな形で?

高田「父が歌った〈銭がなけりゃ〉は、ウディ・ガスリーの〈ドレミ〉に日本語の歌詞を乗せたもので。〈ドレミ〉にはいろんなカバーがあるんですが、僕が一番よく聴いていたのはライ・クーダーのファーストに入ってた〈ドレミ〉だったんです。そこで、〈銭がなけりゃ〉を僕が歌うにあたって、ライ・クーダーの〈ドレミ〉を意識したアレンジにしてみた。そういった感じで、父の曲を解釈するにあたって、もともとの情報ソースにちなんで、別なエッセンスを乗せていったり……そうやってミクスチャーするのが、今回制作する上での楽しみでもありました。〈系図〉も、子どもの頃はてっきり自分の父親が書いた詞だとばかり思ってたんですけど、三木卓さんという詩人の書いた詞が元になってる。その〈系図〉とは別の曲で、ライ・クーダーというかジョセフ・スペンスが手がけたアレンジを模したイントロがあるんですね。そこで、今回のトリビュート盤では、あえてそのイントロを〈系図〉の中に混ぜてみたり……ひょっとして僕をきっかけにして高田渡を聴いた人が、その中にアレ?って思う瞬間があったら楽しいだろうなと(笑)。自分なりに仕掛けも入れてみたつもりなんです」

佐藤「〈系図〉もそうだし、山之口貘の〈生活の柄〉や谷川俊太郎の〈ごあいさつ〉にしても、渡さんが音楽とあわせて歌うと、本家以上にぴったりとフィットする。そして、その子どもである漣くんが、お父さんの曲のさらにルーツにあるものを感じ取って、自分の音楽表現に入れていく……親子二代に渡る、音楽の重層的なつながりを示す作品がこうして発売されるというのは、世界でもなかなか例のないことだと思うし、それをできる人たちもそうはいないわけですよね」

高田「10代の頃から父と一緒に演奏してきたんですが、僕の中ではいつか父のアルバムをプロデュースしたいという思いがあったんです。あるいはがっぷり四つに組んでスタジオ録音をしたかった。とは言え、10年前の僕にはそういうスキルもなかったし、そこまでのものは作れなかったと思うんです。今回、父と一緒にやってた記憶を元にたどるアレンジメントの方法を取りながらレコーディングを進めてきたんですが、演奏しながらこういうアレンジしたら喜ぶだろうなとか、これやったらちょっと怒るだろうなとか、自分なりに想像しては楽しんで作っていって……だから、今までの自分の作品とは系統が違うというか。なんだかイタコじゃないですけど(笑)、自分の中から出て来るものだけで作ってる作品とは違うなと感じながら作ったところはありますね」

佐藤「それって音楽が起こす、ひとつのマジックみたいなものなんですよ。そういえば漣くんは、一度だけお父さんから直接ギターを教えてもらったことがあるんですよね?」

高田「父と初めて共演した時だったと思うから、17歳の時ですかね……僕はギターを弾きはじめた、ずっとエレキギターを弾いてたんです。父と初めて一緒に演奏することになって、珍しく『ちゃんと手ほどきしてやる』っていうことで、父の家に呼ばれたんです。その場で教えられたのが、カーター・ファミリー・ピッキングだった。今回のアルバムでもたくさん使ってますが、後にも先にも父から正式に教わったのはその時だけでした。初めは上手くいかないんですけど、やってるうちに父がステージでやってきたことが少しずつわかるようになってきて。そうして教えてるうちに、本人も盛り上がってきたんでしょうね。奏法をある程度教えた時点で、今度自分がどういう音楽を聴いてきたか、レコードを次々にかけはじめて。ボブ・ディランから、ランブリン・ジャック・エリオット、ドク・ワトソン……言葉数が多い人じゃないので、はっきりは説明してないけれど、自分の音楽的なスタンスや、演奏のスタイルを伝えたかったのかなって思います。もちろん、その当時は演奏も自分のものにならなかったけど、それから20年ぐらい経って、今になってようやく弾けるようになった感じがします」

佐藤「ここ数年は、以前お父さんが使っていたギターを弾いていらっしゃるそうですね」

高田「そうなんです。実はそれも大きく影響していて。父の弾いていたギターを持つと、どこに指を置いていたとか、楽器についたキズからわかってくるんです。楽器って、その前に長く弾いてた人の魂が残るような気がしてて……僕が使ってるのは大体ヴィンテージのものが多いんですけど、もちろん父のギターのように、前のオーナーのことをよく知ってるケースはほとんどない。でも、楽器を弾いてると、知らず知らずのうちに前に使っていた人の魂に導かれる瞬間があるんです。僕も父が使っていたギターを弾くようになって、そこでまた、父のスタイルが身近になってきた……だから、何度かにわけて教わってるような感じがするんです」

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──この何年かで、高田渡さんの楽曲をカバーする若い世代のミュージシャンも増えていますよね。

高田「それこそ、ベストアルバムを作るきっかけになったのは、真心ブラザーズやキセル、ハンバート ハンバートをはじめ、父の歌を歌ってくれたり、父のことをしゃべってくれるミュージシャンたちのおかげで、若い人たちが高田渡に興味を持ってくださる方が多くて。ただ、父の音源がいろんなレーベルに散らばっていて、ベスト盤ていうものが長く出ていない状態だった。なので昔から聴いてくださっていたファンにももちろん聴いていただきたいんですけど、高田渡をこれから聴く人に向けても意識した選曲でもあります」

──実際に「生活の柄」がカバーで演奏されると、若い人たちも一緒に歌えるぐらいに浸透しています。

高田「それは本当にありがたいことで。今回ベスト盤のタイトルにした『イキテル・ソング』っていうのは、明治時代に”演歌”というものがあって、それを父も歌ってたんです。父が亡くなって10年経つけれど、曲っていうのはずっと生き残るものなんだなっていう意味も込めて、このタイトルを付けました」

──渡さんの歌にあったユーモアや、そのユーモアに包まれていたメッセージなど、今の時代に足りないものが求められていることの表れかもしれない。

高田「その通りですね。計らずも父が歌っていた詞のテーマが、この2015年になっても有効だということなんですよね。それは喜ばしいことでもあるし、残念なことでもあって……たとえば1969年の時代で〈自衛隊に入ろう〉と歌うことは、ユーモアだったと思うんです。何をしてるのかよくわからない自衛隊というものに、一生懸命勧誘してる滑稽な姿として父は歌ってたと思うんです。それは恐怖心じゃなくて、変な歌、面白い歌という感覚で聴かれていたはずで。でも、今の時代にはこの歌の持ってる恐ろしさというか、シャレにならない感覚を強く感じてしまう。そういった言葉たちが今の時代に有効になっているというのも、僕自身の中で引っかかってることで。〈鉱夫の祈り〉や〈平和節〉にしてもそうだし、かつて録音したので今回のアルバムには入れなかった〈鮪に鰯〉とか……そういった曲が、今の社会ではより辛辣に響いてしまう。もちろん〈夕暮れ〉や〈ブラザー軒〉のように、歌によって描かれた景色が、今でも普遍的に人々の心に感じられるっていうのはうれしいことなんですけど……曲が生きてしまっていることの、両方の意味を感じます。それは忌野清志郎さんの言葉もそうだと思うし、20世紀が生んだポップスすべてに言えることで。本来なら、それが古いものとして捉えられて『昔はこういう歌があったんだね』と残るべきなのかもしれないけれど、残された言葉が、現在の言葉のように今でも有効だというのは、いろんな意味を含むことなんだなとあらためて感じます」

──だからこそ、歌っていかなければならないという意識もある。

高田「そうですね。そもそも父が明治の演歌であったり、山之口貘の言葉であったり、ウディ・ガスリーに興味を持ったのも、やっぱりそこなんだと思うんです」

【高田漣インタビュー後編は、コチラ】


高田渡 profile
1949年、岐阜県に生まれ東京に育つ。中学卒業後、昼間は印刷会社で働き夜は定時制高校に通う生活を送る中、アメリカのフォークソングに傾倒し曲作りを開始。1968年、フォークキャンプで「自衛隊に入ろう」を唄い注目され、翌年『高田渡/五つの赤い風船』でレコードデビューを果たす。自作のほか、明治・大正・昭和の演歌師や山之口貘をはじめとする詩人の現代詩に曲をつけたスタイルを確立。独自の手法で日本のフォークソングを次々と作り出し、40年近く全国各地で唄い続けた。2004年には音楽ドキュメンタリー映画『タカダワタル的』が公開、同名のサウンドトラックもリリースされる。翌2005年4月、公演先の北海道にて56歳で急逝。

高田漣 profile
1973年、フォークシンガー・高田渡の長男として生まれる。14歳からギターを弾きはじめ、17歳で西岡恭蔵のアルバムでセッション・デビューを果たす。スティール・ギターをはじめとするマルチ弦楽器奏者として、YMO、細野晴臣、高橋幸宏、斉藤和義、くるり、森山直太朗、星野源などのレコーディングやライヴで活躍中。ソロ・アーティストとしても今までに6枚のオリジナル・アルバムをリリースしている。
高田漣 official website


高田渡『イキテル・ソング~オールタイム・ベスト~』

高田渡
『イキテル・ソング 〜オールタイム・ベスト〜』

(ベルウッド・レコード / キングレコード)


高田漣『コーヒーブルース ~高田渡を歌う~』

高田漣
『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』

(ベルウッド・レコード / キングレコード)


高田渡『マイ・フレンド―高田渡青春日記1966-1969』

高田渡・著/高田漣・編
『マイ・フレンド―高田渡青春日記1966-1969』

(河出書房新社)


高田渡トリビュートライブ “Just Folks” 2016 秋
2016年10月29日(土)徳島・寅家
2016年10月30日(日)大阪・雲州堂
2016年11月4日(金)岐阜・高山 Coffee&Music ピッキン
2016年11月5日(土)石川・金沢 もっきりや
2016年11月6日(日)富山・LETTER
2016年11月9日(水)神奈川・横浜 MOTION BLUE YOKOHAMA
2016年11月11日(金)宮城・白石 カフェミルトン
2016年11月12日(土)岩手・盛岡 九十九草
2016年11月13日(日)宮城・仙台 SENDAI KOFFEE
2016年11月27日(日)奈良・ビバリーヒルズ

詳細は、高田漣official websiteを参照ください。


*本コラムは2015年4月16日に初回公開された記事に加筆修正しました。

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