大村憲司さん KENJI

Extra便

大村憲司のギターから詩が聴こえる~ロックからブルースへと源流をさかのぼっていった音楽家

2017.01.31

音楽史に残る屈指の名ギタリスト、大村憲司がまだ49歳という働き盛りで亡くなったのは1998年11月18日のことだった。
その2年前の10月30日、彼は日記を兼ねたノートにこんな文章を残していた。

もしあの’60年代の終わりから’70年代前半にかけての「ROCK MOVEMENT」を経験していなければ私は音楽家になっていなかっただろう。


1969年代の後半、エリック・クラプトンが在籍したクリームやジミ・ヘンドリックスなど、アメリカの黒人ブルーズを根底にしたエレクトリック・ギターによるロック・ムーブメントは、イギリスから始まって全世界に広まっていった。

それを受けとめた若者たちのなかに、神戸に住んでいたギター少年の大村憲司もいた。

あの時から、世界の音楽シーンは「ショービジネス」の世界から「若者文化」という新しいムーブメントの「伴奏曲」としての「ロック」を生み出し、若者たちに、自分たちの力で世の中が変えられるかもしれないと信じさせたのだった。
そういう動きがなければ私のような性格の人間がROCKやPOPSに手を染めるはずはない。


大村憲司は単に音楽が好きで、ギターにのめり込んだわけではなかった。
大人たちの作った世界を自分たち若者の手で新しくする、そのために立ち上がるバイブルのように、彼はロックのレコードを聴いたのである。

ビートルズやローリング・ストーンズを始めとするブリティッシュ・インベイジョンのバンド、モータウンやスタックス・レーベルのR&B、チャック・ベリーや当時はまだ名前もよくわからなかったブルーズマンたちの古い音源、さらにそれをコピーしていたイギリスの白人R&Bバンドと、むさぼるようにレコードを聴いていくうちにあることに気がついた。

初期のビートルズやストーンズの曲には当時まだ一般には知られていない、昔のトラディッショナルなブルースがカヴァーされていたのである。
そこからジャズやロックのルーツにあるブルースへと、大村憲司は源流をさかのぼっていくことになった。





高校を卒業した1969年にヤマハ・ライト・ミュージック・コンテストのロック部門で優勝し、大村憲司は1970年にはアメリカに渡ってサンフランシスコ大学に留学する。

現地でバンドを組んで活動し、フィルモア・ウェストのアマチュアナイトに合格してステージ立ったこともあった。
もちろんそこではオールマン・ブラザーズ・バンドやB・Bキング、フレディ・キングのライブを体験した。

そして帰国後は上智大学の国際科に編入したが、すぐにプロ・デビューしていた赤い鳥のサポート・メンバーとして活躍する。
やがてブルージィなフレーズを弾かせたら比類のないギタリストとして、日本の音楽シーンに欠くことのできない存在となっていったのだ。

その1音1音がクリアに冴えわたるギター・プレイは、しばしばインストなのに歌が聴こえてくると形容される。
プロになってから二人でギター・デュエットしたこともある伊藤銀次が、まだ10代のアマチュア時代だった頃に、大阪の天王寺野外音楽堂で初めて目にした大村憲司の演奏についてこう記している。

憲司さんのギター・プレイはインストなのに僕には歌のように聞こえてしまう。まるで言葉のついていない歌なのだ。
初めて憲司さんのプレイを見聞きしたときに感じて以来、その思いはずっと変わることはない。
〈引用元〉DrillSpinコラム「ライブアルバムを聴きながら…僕と大村憲司さんのこと」


アマチュアの時から大村憲司はギターで歌っていたのだ。
その根底にはいつもブルースがあった。

ところでブルースという言葉から頭に浮かべるイメージは人それぞれで、年齢や生まれ育った環境によって千差万別だ。
では、大村憲司のブルースとはどういうものなのか。
それについては本人の、こんな言葉が残されている。

その昔、僕の敬愛するアーティスト”大貫妙子”さんとお酒を飲んでいた時、彼女がため息まじりに言った言葉がとても印象的に心に残っている。

”でもさ、世の中って、誰も悪くなくても悲しいことっていっぱい起こるんだよね。”

僕は彼女のその言葉を聞きながら、ブルースのことを考えていた。


大村憲司がギターのフレーズから発するやむにやまれぬ情感は、言葉にはできない詩だったのかもしれない。


(注)大村憲司の文章および発言はすべて「大村憲司のギターが聴こえる (レア・トラックス3曲収録のCD付)」 (リットーミュージック)からの引用です。





『大村憲司のギターが聴こえる』 (レア・トラックス3曲収録のCD付) (大型本)
リットーミュージック

大村憲司『レインボウ・イン・ユア・アイズ~ベスト・ライヴ・トラックスVII』
STEPS RECORDS

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