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「君がリーダーだから」とスティーブ・ガッドとウィル・リーに導かれて桑原あいが進んでいく道

2017.02.04

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幼少の頃から天才エレクトーン少女として称賛されていた桑原あいが、ピアノに転向したのは中学生の後半からだった。
だが当初は「自分の下手さに絶望」してしまい、そこから重ねた苦労は並大抵ではなかったという。

クラシックから始めたんですけど、脳みそが完全にもうエレクトーンになっていたんですね。
鍵盤楽器を14歳まで、10年間くらいやってきて「こんな下手なのか!?」ってなったんです。


「もう私は完全にピアノを弾けるまで、ピアノ以外の楽器を弾かないぞ」という気持ちで、精神を集中させてクラシック・ピアノのレッスンに通った。
高校を卒業した後の2010年4月、企画・演出・作曲のすべてを自身で手がけるファースト・ライヴを開き、新しい表現に挑む音楽家として注目を集めた。

2011年5月から8月にかけて、桑原はヤングアメリカンズのドイツ公演にピアニストとして参加し、ドイツに長期滞在して演奏活動を行った。
そして2012年5月に1stアルバム『from here to there』をリリース、翌年4月に発表した2ndアルバム『THE SIXTH SENSE』がタワーレコードのジャズ・チャートで1位になる。

自身がリーダーとなるトリオ・プロジェクトの活動を中心にしつつ、3rdアルバム 『the Window』 をリリースした2014年からはジャンルにとらわれず、ソロピアノ、with ストリングなど、自由なかたちで活動の幅を広げていった。

その後、「モントルー・ジャズ・フェスティバル・イン・かわさき」でソロピアノ・コンペティションに出場して優勝す、2015年の7月にスイスのモントルーで行われた、本場のソロピアノ・コンペティションにも日本人代表として出場した。

そこでクインシー・ジョーンズと出逢ったことから、突き当たっていた壁を乗りこえて桑原は「The Back」という作品を書いたことで、世界への道が開けていったのである。

2016年に入るとアメリカでの単独武者修行やLAでのライブなどの経験を積んだ上で、11月からニューヨークのシアーサウンドで2年ぶりとなるアルバム制作に取り組んだ。
そこにはドラムのスティーヴ・ガッドとベースのウィル・リー、ジャズ界のレジェンドというべき最強のメンバーが待っていた。
来日時に桑原と知り合って気に入ってくれた二人とともに、桑原はアルバム『Somehow, Someday, Somewhere』をトリオでレコーディングした。



アルバム・タイトルにもつながるレナード・バーンスタインのミュージカル・ナンバー、「ウェスト・サイド・ストーリー」の代表曲「Somewhere」を筆頭に、ビル・エヴァンス、ボブ・ディラン、ミシェル・ペトルチアーニのカヴァーと、自身のオリジナル5曲が収録された。

桑原はかつてピアノについてこう語ったことがある。

ピアノは、ピアノ自身が人間と同じようにいろんな感情を持っている生き物ですが、そのピアノに実際命を吹き込んであげるのがアーティスト側の使命だと思っています。
もはや「私がピアノなの」となれるのが理想なんです。


そんな理想がレコードになったともいえるアルバムの最後を飾ったのは、もちろんクインシーとの出逢いから生まれてスランプ脱出の突破口になった「The Back」である。

完成したアルバム『Somehow, Someday, Somewhere』のライナーノーツで、桑原は最後にこんな一文を寄せている。

今回もプロデューサーをはじめ、たくさんのスタッフさんが力を貸してくれました。
家族は精神的に支えてくれました。
何よりもスティーブとウィルは、私に信じられないほどの音楽の栄養をくれ、光を浴びせてくれました。


そして応援してくださる皆様がいるから、音楽をすることが出来ます。
ありがとう。
クインシーの大きな背中が、今でも脳裏に焼き付いています。
私は、あの背中を一生忘れることはないでしょう。


クインシー・ジョーンズによって開かれた桑原あいが世界へ進む道を導いてくれたのは、スティーブとウィルが「君がリーダーだから」と言ったひとことだった。


(注)文中の発言は〈SPICEインタビュー – ジャズミュージシャン 桑原あいの現在とこれから ~”冬の陣 With Strings”に向けて~〉からの引用です。詳しくはリンク先でお読みください。
最後の文章はアルバム『Somehow, Someday, Somewhere』のセルフ・ライナーノーツに収められています。

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