「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the NEWS

トム・ウェイツの名曲、サンディエゴ・セレナーデ〜その美しいメロディと珠玉の詩

2015.06.21

Pocket
LINEで送る

Mojo99-MichaelPutland-TWM

歌のタイトルなどでよく耳にする“セレナーデ”とは如何なるものなのか、皆さんはご存知でしょうか?
セレナーデ──それは一般的に、女性がいる部屋の窓辺に向かって男性が夕べ(夜)に歌う“愛の歌”の意味を持つという。
元々はドイツ語に語源があるという説が有力と云われている。
St[a]ndchen読みは「シュテントヒェン」。※[a] は、上に点が二つが来る [¨],ア・ウムラウト
これは英語のStandと同義語だという。
Stand には「立っている状態」とか「売店」などの意味があるので、転じて「小さな売店」となり、「立っている状態」から「ちょっと立っている状態」、すなわち「立ち話」とか、立って歌を唄う「セレナーデ」の意味になったと云われている。
ドイツではSerenade と書いて「ゼレナーデ」と読み、最初が「セ」でなく「ゼ」となる。
英語だとserenade(セリネイド)、フランス語だと s[e]r[e]nade(セレナード)で「セレナーデ」とは読まない。※[e] はeの上に鋭アクセント[´]が付いた文字
音楽用語では「小夜曲」という訳語を当てるのだが、曲のタイプ・種類のことともう一つ、建物の窓辺にいる女性に向かって男性が恋の歌を唄いかけたり演奏することを意味するというのだ。
さらにルーツを辿ると、元々はイタリア語の serenata(セレナータ)から来た言葉で、発祥はイタリアなのだと云う。
serenata は、serenare(セレナーレ)という動詞の過去分詞派生形容詞の女性形の名詞化で“静めた・落ち着かせた”などの意味を持つ。
恋の歌や曲を演奏して“静めた”とは少し変だが…夜の静けさと関係があるのかも知れない。
高鳴る胸を抑えきれずに唄う情熱的なラブソングとは違って…セレナーデには夜の静けさがよく似合う“切なさ”や“哀しみ”が込められているのだろう。

♪「San Diego Serenade」/トム・ウェイツ


この曲は1974年にトム・ウェイツが発表した2ndアルバム『The Heart of Saturday Night(土曜日の夜)』に収録されたもの。
彼がまだ25歳の時の作品である。
アルバムはビルボードのアルバムチャートで最高201位とそんなに売れず、この曲自体シングルカットされたこともないのだが、ファンの間では“隠れた名曲”として長く愛され続けている。
大切なものは失ってみてはじめて気づくもの…。
喪失感、苦い経験、辛い別れ…そんな心の傷跡にそっと寄り添ってくれるこの珠玉のメロディ。
「Never~till…」という言葉が何度も繰り返される悲哀に満ちた歌詞をじっくりと味わいながら聴いてみて欲しい。


夜通し起きてでもいなければ 朝なんて見たこともなかった
灯をともすまで 太陽さえ見たことがなかった
ずっと離れて暮らしてみるまで 故郷があることにも気づかなかった
歌を必要とするまで メロディさえ聴いたことがなかった
おまえの名前を口にするまで 「愛してる」とさえ言ったこともなかった
気が狂いそうになるまで 心の糸に触れてみたこともなかった



カリフォルニアの南部に位置するサンディエゴは、トムが多感な十代を過ごした想い出の場所である。
この街にあるナポレオンのピザハウスで、彼は閉店後の雑役をしていた。
そうやって夜の裏街で繰り広げられるドラマの数々を見聞きしたことが、彼の楽曲のモチーフや場面描写に活かされているのだ。
トムが描き出す世界で一貫してきたのは、世の中からはみだした人達への愛情溢れる視線だった。
彼の歌の舞台は、色々な人達がたむろする深夜のバーであったり、華やかな表通りから外れた路地の一角であったり、さびれたモーテルであったりというのが圧倒的に多い。
そして、そこで息を潜めながらも、したたかに生きている人達への“優しい視線”に満ち満ちたものだった。
音楽的にも1970年代初期に登場したロサンゼルス周辺のシンガーソングライターの中で、トムは特異な個性の持ち主だった。
当時、カントリーロック調の演奏をバックに、爽やかな歌声で魅力を発揮するアーティストが多い中にあって、トムはそういった主流から逸脱したスタイルを確立させていた。
それはジャズやブルースなどもしたたかに吸収した唯一無二の“トム・ウェイツ節”とも云える歌世界だった。

♪「San Diego Serenade」/トム・ウェイツ(TV Show@ London 1979)



夜通し起きてでもいなければ 朝なんて見たこともなかった
おまえが愛の灯をともすまで 太陽さえ見たことがなかった
ずっと離れて暮らしてみるまで 故郷があることにも気づかなかった
歌を必要とするまで メロディさえ聴いたことがなかった


トム・ウェイツ『The Heart of Saturday Night(土曜の夜)』

トム・ウェイツ『The Heart of Saturday Night(土曜の夜)』

(1974/アサイラムレコード)


Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the NEWS]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ