今日は、妄想する男の歌を創らせたら右に出る者はいない、トム・ウェイツを紹介しよう。
1949年にカリフォルニアで生まれたトム・ウェイツがデビューを果たすのは、1973年のことだ。このデビュー・アルバムに収められているのが、「I Hope That I Don’t Fall In Love With You」(「恋におそれて」)である。
♪いや、恋になんて落ちたくないさ
恋しても、ブルーになるだけだ♪
主人公は歌の冒頭でそう、宣言してみせる。だが、ひとり、夜の店で飲んでいる主人公は、音楽を聞きながら「君」が自分に気があるのでは、と妄想を始めるのだ。そして、彼はあの台詞を繰り返す。
♪君と恋には、落ちたくないのさ♪
店は少しずつ混雑し始める。主人公は座席についているのだが、「君」は立ったまま酒を飲んでいる。席を譲ろうか、と彼は妄想する。ふたりは一緒に飲み始め、いつしかふたりは、という妄想だ。そして彼はまた、呟く。
♪君と恋には、落ちたくないのさ♪
そんな妄想を繰り返していると、いつしか店の閉店時間が近づいてくる。スピーカーから流れていた音楽も消え、ラストオーダーがコールされる。主人公はスタウト(黒ビール)を注文し、「君」を探す。
だが、「君」の姿はどこにも見えない。そして主人公は、こう口にするのだ。
♪君に、恋しちまったようだな♪
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