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挫折を知る者の歌〜それはスポットライトではない〜

2014.01.19

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♪「それはスポットライトではない」/浅川マキ


器用には生きれない人。
挫折を味わったことのある者だからこそ唄える“歌”がある。
彼等だけが知っている。
本当の優しさ、本物の強さを。
そして“あの光”の正体を。


2010年1月17日、浅川マキは心不全でこの世を去った。享年67。
「アングラの女王、逝く」と、翌日の新聞に訃報記事が小さく載った。

もしも光がまたおいらに…当るならそれをどんなに待ってるさ
ずっと以前のことだけれどその光に…気付いていたのだが逃がしただけさ
だけどふたたび、いつの日にか…あの光がおいらを照らすだろう

1976年、当時33歳だった浅川マキが「It’s Not The Spotlight」という曲を日本語詩で歌った。原詞は“スポットライトみたいに輝く瞳の彼女と別れてしまった〜でもまたいつか彼女とよりを戻したい”という内容の未練節。彼女は、それを自己流に訳し“永遠に失ってしまったもの〜輝いていたあの頃の光”として、器用には生きれない男の心情を歌に込めた。

さかのぼること三年…その曲はアメリカで誕生した。キャロル・キングの元夫でもあるジェリー・ゴフィンと、敏腕セッション・キーボーディストのバリー・ゴールドバーグによって共作された。ジェリー・ゴフィンのアルバム『It Ain’t Exactly Entertainment』(1973年)に収録されたのが初出。 翌年、ボブ・ディランのプロデュースによってバリー・ゴールドバーグが発表したアルバム『Barry Goldberg』(1974年)にも収録された。 程なくして、英国の人気ロックアーティスト、ロッド・スチュワートが本格的アメリカ進出を賭けて発表したアルバム『Atlantic Crossing』(1975年)の中でカバーし、広く知られるようになる。 その翌年に浅川マキが歌った日本語詩は、こんな風に続く…。

あの光そいつは…古びた町のガス燈でもなく月灯りでもない
スポットライトでなくローソクの灯じゃない…まして太陽の光じゃないさ

「器用じゃないのかもしれない…でもやっぱり自分で納得のいかないものは歌いたくない。メロディーっていうより詞の方ですね。やっぱり詞が納得いかないものっていうのはとても嫌ですね。だからワタシは売れない。」
ゆっくりとタバコを燻らせながら…彼女はそう言った。

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1942年1月27日、彼女は石川県石川郡美川町という漁師町で生まれる。家が五軒しかないという集落で、妹と共に過ごした幼い頃に「美空ひばりを聴いて育った」という。
彼女が7歳のとき、その天才少女は12歳でデビューを果たし、光り輝くスポットライトを浴びていた。高校を卒業した彼女は町役場に就職し、国民年金の窓口係を担当する。
しかし、ほどなくして役場を辞め、夜行列車に乗って東京に向かった。「法律の勉強をするため」と言い残すも…ただ町を出たかったのかも知れない。彼女は全国のキャバレーや沖縄米軍キャンプ、そして新宿の歌声喫茶『灯』でゴスペルやブルース、ジャズを歌い始めた。1967年、当時25才だった彼女はレコードデビューする。しかしそのデビュー曲「東京挽歌」は、彼女が歌いたかった世界とはあまりにかけ離れていた。その後、寺山修司によってその才能・存在感を見出され、1969年にシングル「夜が明けたら/かもめ」で再デビューを果たす。学生運動、70年安保闘争という時代の中、それは“アングラの女王”と呼ばれた彼女にとって一筋のスポットライトを浴びた時期でもあった。
それからというもの、寺山修司に始まり松田優作、原田芳雄、菅原文太など、彼女の周りには才能豊で“少し不器用な“タバコの匂いのする男”ばかりが集った。自身も愛煙家であり、ステージ上でもタバコを燻らせながら歌っていた。

あの光そいつはあんたの目に…いつか輝いていたものさ
またおいらいつか感じるだろうか?
あんたは何を知ってるだろうか…

上京以来、敬愛してやまなかったビリー・ホリデイや、幼い頃から好きな美空ひばりが、どんな曲でも自分の感情にひきつけて歌いこなす“天才的な歌手”だったのと異なり、彼女は肌にあわない曲は歌わなかった。
その“スタイル”は約40年間貫かれ…
2010年1月17日(日)午後7時46分、彼女は公演先の名古屋のホテルで“冷たい身体”となって発見された。初日、二日目と満員御礼だった三日連続公演の最終日。
そこに彼女は現れなかった。
その夜、小さな老舗ライブハウスのスポットライトが…
蒼白いタバコの煙を静かに照らし出していた。

浅川マキ『Long Good- bye』
2010年/EMIミュージックジャパン
<解説>
才能豊で少し不器用な“タバコの匂いのする男”
ステージにおいては、泉谷しげる、仲井戸麗市、坂本龍一、吉田拓郎、渋谷毅、山下洋輔、近藤等則、つのだひろ、後藤次利などの名立たるミュージシャン達と深い交流があった。

♪「It’s Not The Spotlight」/ロッド・スチュワート
♪「It’s Not The Spotlight」/ジェリー・ゴフィン
♪「It’s Not The Spotlight」/バリー・ゴールドバーグ

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