「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the NEXT

杏沙子──抜群の表現力をもつ、24歳の女性シンガー。非凡な才能を感じさせるファースト・アルバム

2019.02.28

Pocket
LINEで送る


 1994年生まれ、現在24歳の女性シンガー=杏沙子(あさこ)。鳥取県で生まれ育った彼女は、母親が好きでよく聴いていた、松田聖子や槇原敬之、DREAMS COME TRUEなどを小さい頃から一緒に歌っていたことから、歌うことの楽しさを覚えたという。大学在学中から曲作りをはじめ、月2回のライブを続けながら毎回自作曲を発表してきた。

 2016年7月、インディーズからCDをリリース。オリジナル曲である「道」「アップルティー」「マイダーリン」の3曲のミュージック・ビデオをYouTubeにアップすると、中高生を中心に大きな話題となり、渋谷WWWやクラブクアトロでのワンマンも成功させた。そして2018年7月、ミニアルバム『花火の魔法』でメジャーデビューを果たした。

 その『花火の魔法』でから、わずか7ヶ月ほどで発表された杏沙子のファースト・フル・アルバムが、『フェルマータ』だ。全11曲を収録した本作には、杏沙子自身が詞曲を手がけた楽曲はもちろん、前作にも楽曲を提供した幕須介人をはじめ、宮川弾、山本隆二、冨田恵一、横山裕章といったソングライター/アレンジャー陣が参加。また、名越由貴夫、佐野康夫、伊藤大地、沖山優司、美央ストリングスといった、豪華プレイヤーたちが、杏沙子が描くカラフルなポップ・ワールドを彩っている。

 爽快なサウンドに、杏沙子の歌声が朗々と伸びていく「着ぐるみ」で幕を開ける本作は、軽快なスカ・ビートにのせて自由に跳ね回るようなボーカルに心躍らされるリード曲「恋の予防接種」。にぎやかなジプシー・ブラス調の「よっちゃんの運動会」。70年代ファンクなグルーヴにのせて、歌とラップの合間を縫うような自由奔放なヴォーカル表現で二十代の女の子の赤裸々な恋心を吐露していく「ダンスダンスダンス」……と、目まぐるしいほどに色とりどりな曲調を、実に軽やかに歌いこなしていく、杏沙子のシンガーとしての実力の高さにまずは圧倒される。しかも、ただ上手いだけでなく、キュートでコミカルな朗らかさから、しとやかな女性らしさ、メランコックなタッチまで、表情のつけ方が実に自然で、知らないうちに、彼女の歌の世界に引き込まれている。それがたとえば、彼女がインディーズ時代に発表した「アップルティー」の歌詞のように、青春ど真ん中を生きる女子学生の、みずみずしく甘酸っぱい恋愛模様を描いたストーリーだったとしても、だ。

 アルバムは終盤、ピアノのみをバックに歌う「おやすみ」と、生まれ育った故郷への想いを綴った「とっとりのうた」の、2曲のバラードで締めくくられる。ファースト・フル・アルバムにして、シンガーとしての非凡な才能を十二分に発揮した杏沙子。これから先、彼女が見せてくれるであろう飛躍ぶりに、大いに期待したくなる傑作だ。


杏沙子『フェルマータ』

杏沙子
『フェルマータ』

(ビクターエンタテインメント)




杏沙子ワンマンライブ 「fermata」supported by JTB
3月15日(金)大阪・心斎橋 OSAKA MUSE 
3月30日(土)東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST

official website
http://asako-ssw.com/

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the NEXT]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ