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オン・ザ・ビーチ~夏の太陽が焼付けた2つの光景

2014.07.17

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この季節、忘れてはいけないタイトルが「オン・ザ・ビーチ」だ。

イギリスの人気歌手、クリフ・リチャードがこのタイトルの曲をアビー・ロード・スタジオでレコーディングしたのは1963年の11月だった。もともとは映画「ワンダフル・ライフ」のサントラの中の1曲だったが、ラジオでのヘビーローテーションもあり、彼のヒット曲のひとつとなった。

それから20年ちょっとたった1986年、ネットワークが新たなヒット曲を生み出し始めた頃、映像サイトでヘビーローテーションとなったのが、クリス・レアの「オン・ザ・ビーチ」だった。

恋人たちの視線を縫うようにして、ひとり浜辺を彷徨う男。
彼は今でも、過去の愛の思い出の中に生きている。
真夏の風は、あの時と変わらぬメロディーを奏でているようだが、
波が浜辺の砂を洗うように、
時は彼の思い出の魔法を少しずつ洗い去っていく。
それでも、彼はこう訴えるのだ。

 
 私の心は永遠に
 芳しき思い出とともに
 この夢の中にあるだろう
 奇妙な欲望の日々よ
 炎のように燃えた夜よ
 私をあの懐かしい場所へ
 連れ戻してほしい
 あの渚へ


夏の太陽は時を止めてしまう魔法があるのだろう。

だが、「オン・ザ・ビーチ」と聞いて、こんな話を思い出す人もいるだろう。

第3次世界大戦が勃発。北半球は放射能汚染で殲滅する。
アメリカ海軍の原子力潜水艦スコーピオン号は、オーストラリアのメルボルンへ寄港するが、アメリカ本土からモールス信号が断続的に発信されていることに気づく。
だが、発信元のワシントン州にある海軍学校に行ってみると、コーラの空き瓶が風に揺れ、キーを叩いていたことを知る。
多くの者たちは、薬物による安楽死という道を選び始める。そして。。。

「オン・ザ・ビーチ」(渚にて)は、1957年、ネビル・シュートが書いた小説だ。
そして今年も、様々な場所で、様々な夏がある。
夏はその映像を焼付けようと、太陽を輝かせている。
だが、その背後では、確実に時は刻まれ、波は砂を洗い流しているのだ。




クリス・レア『オン・ザ・ビーチ』
ワーナーミュージック・ジャパン

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