TAP the ROOTS

晩年に復活したロイ・オービソンの偉大なる歌声

2017.10.19

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孤独でいることには
もう飽き飽きしたのさ
私にはまだ
愛を与えられるのに


 1988年。ロイ・オービソンがトラヴェリング・ウィルベリーズのメンバーとして「ハンドル・ウィズ・ケア」の中で歌った歌詞は、印象的だった。だが、その歌詞は確かに、その頃のロイが置かれていた状況を言いえたものだった。
ロイ・オービソンはすっかり過去の人になっていた。時折、若いシンガーたちが彼の歌をカバーしたり、映画の中で若き日のヒット曲が使われることはあったが、彼自身はといえば、ひとり、孤独の中にいた。
 トラヴェリング・ウィルベリーズのメンバーとなるジェフ・リンが、ロイに出会ったのは、その前の年、1987年のことだった。
 ロイは、ジェフにとって、若い頃からのアイドルだった。手に届くとは思えない空に輝くスターだった。だが、その年、ジョージ・ハリスンと仕事をしたことをきっかけとして、ジェフはロイ・オービソンの事務所の電話番号を手に入れていたのである。

 ロイ・オービソンはすっかり自信をなくしているように、ジェフには見えた。
 時代遅れだ、という意味の言葉を、何度も何度も多くの音楽関係者に言われ続けてきたのだろう。
「あなたが時代に合わせる必要など、ないんだ」とジェフは言った。彼の望みは、あの偉大なるロイ・オービソンをそのまま、再現してみせることだったからである。
「また、会おう」と、ロイは言った。

 ロイからジェフに連絡が入ったのは、その年の暮れのことだった。マリブーにある家まで来てほしいということだった。ジェフは、ロイの中に、力が蘇り始めていたことを感じていた。ふたりは、セッションをすることを約束した。
 ジェフはすぐに、トム・ペティに電話を入れた。
「手伝ってくれないか?」
 そして、街がクリスマスのデコレーションで彩られている季節に、3人のセッションは始まった。ジェフはカシオのキーボードを弾きながら、アコースティック・ギターを手にコーラスをするロイとトムを見守った。


君が欲しいもの
どんなものだって
君のものさ


 初めてのセッションで作られた「ユー・ガット・イット」が録音されたのは、明けて、1988年の4月のことである。3人は、トムのバンド、ハートブレイカーズのギタリスト、マイク・キャンベルがもっていたガレージ・スタジオにいた。
 いよいよ、歌入れである。
 そして、初めて、ジェフはロイの歌声を聴くことになった。リハーサルで耳にしていたものではない、本気の歌声は、録音機器の針を振り切ったのである。


君が欲しいもの
どんなものだって
君のものさ


 その圧倒的な歌声は、まさにジェフが欲しいものだった。いや、それ以上のものだった。
 ロイ・オービソン、復活。

 だが、その年の暮れ、ジェフは早朝、一本の電話に起こされることになる。

 Mr.オービソンが亡くなった。

 誰からの電話か、わからなかった。だが、電話の主はそれだけ言うと、電話を切った。
 ロイのカムバック作は、彼の遺作となってしまったのである。



Roy Orbison『MYSTERY GIRL – EXPANDED』
ARIST

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