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レナード・コーエンが死の直前に贈ったマリアンヌへのラブレター

2023.11.07

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1967年12月27日。

 詩人、小説家からシンガーへの転身をはかったレナード・コーエンのデビュー・アルバム『ソングス・オブ・レナード・コーエン』が発売された。

 アルバムとしては成功とは言い難いセールスだったが、「スザンヌ」「ソー・ロング・マリアンヌ」は他のアーティストにカバーされ、ソングライターとして認知されるとともに、コアな信者を獲得することになる。

 以前、「スザンヌ」については紹介したので、今回は「マリアンヌ」について書いてみようと思う。


ああ、君と暮らしたい
だが君のせいで
物忘れが激しくなった
私は天使たちに祈ることを忘れ
天使たちはふたりのために
祈ることを忘れてしまった


 これはマリアンヌとの別れの歌である。


さよなら、マリアンヌ
ふたりはもう一度
笑い、泣き
泣いて笑う日々を最初から
やり直すことになる


 マリアンヌには、夫と子供がいた。夫はノルウェイの作家、アクセル・ジャンセン。アクセルは当時、小説を書くために、ギリシアのハイドラ島に家族と共に滞在していた。マリアンヌはそこでレナード・コーエンと出会い、恋に落ちたのである。

 マリアンヌは、息子を連れ、レナード・コーエンとの生活を選ぶ。そして3人は、カナダのモントリオールへと向かい、一緒に暮らし始めるのだが、その生活も長くは続かなかった。

 そこは自由人、レナード・コーエンの性である。
 だが、彼は生涯、彼女に対して、深い想いを抱いていた。


君の手紙にはいつも
私のそばにいる、と書かれていた
だとすれば
どうして孤独を感じようか
岸壁に立っていようとも
君の繊細な蜘蛛の巣は
私の足を岩に縛りつける


 2016年。
 癌を患ったマリアンヌの元に、レナード・コーエンから手紙が届く。

「なあ、マリアンヌ。私たちはこのように年老い、ふたりの身体は離れ離れだ。そして私もすぐ君の後を追うことになる。もし君が手を伸ばせば、私はすぐそばにいる。君に、すぐ届くくらいにね。
 いつだって私は、君のことを愛してきた。君の美と知恵を。もうそれ以上言わずとも、わかってくれるはずだ。今はただ、君がよい旅をできることを祈っている。さようなら、旧き友よ。終わりなき愛を。道の向こうで会おう」


 7月にマリアンヌは天国の島へと旅立ち、レナード・コーエンは11月、彼女の元へ、遅れて旅立った。






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