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キル・ビル〜オマージュが吹き荒れる復讐を誓った女の孤高の旋律

2017.10.10

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小説も音楽も映画も美術も、過去の偉大な作品の影響なくして創造されない。作り手の体験や無知なることに対する取材、あるいは空想でさえ大切なのは言うまでもないが、文化作品からインスピレーションを受けることも独自の創作には必要不可欠な“血”となる。

例えば音楽。チャック・ベリーのロックンロール史上最も有名なあのリフは、今まで世界中の無数のミュージシャンの“新曲”に取り入れられてきたし、過去の音楽すべてが素材となるヒップホップはサンプリングなくして語れない。どんなジャンルの音楽にもこの“影響”や“引用”は成立する。

映画だって同じだ。あのジャン=リュック・ゴダールの伝説的な映画『気狂いピエロ』には、文学作品からコミックまであらゆる分野のカルチャーの断片が映像に散りばめられる。しかも驚くべきことにそれが一本の物語として繋がっている。

この種の作品は受け手の文化体験によって面白さが左右することは確か。でも知らなくてもそんなことは後から発見すればいいし、それがきっかけでその人の壮大な文化探求の旅が始まることもある。芸術や創作の醍醐味がそこにある。

『キル・ビル』は、ドライブイン・シアターやグラインドハウスで観た映画へのオマージュなんだ


映画作家クエンティン・タランティーノの『キル・ビル』(KILL BILL/2003・2004)も、そんなオマージュとリスペクトが吹き荒れる作品の一つだった。映画やサブカルチャーの“マニア”として知られるタランティーノ作品の中でも、これほどカオス的なものもないだろう(ちなみにタランティーノの映画制作会社「A Band Apart」は、ゴダールの映画『Bande à part』から)。撮影日数270日。舞台はLA、メキシコ、北京、東京、沖縄だ。

ユマは俺にとって、ジョゼフ・フォン・スタンバーグにとってのマレーネ・ディートリッヒさ。彼女でなきゃダメなんだよ


マカロニ・ウェスタン、フィルム・ノワール、ブラックスプロイテーション、カンフーやサムライ映画といった世界観が交錯する物語は、主人公のザ・ブライド(ユマ・サーマン)による一貫した“復讐”という目的がある限り、どこか安心感に包まれながら観れてしまう。ブラックジョークもえげつない描写も、やがて到達する画が想像できるので笑えたりもする。

『キル・ビル』にはVol.1とVol.2があり、記憶に残るシーンも数多い。快晴の午後の住宅街での殺し合い、ヤクザのアニメーション、栗山千明扮する女子高生の殺し屋“GOGO夕張”、雪景色の日本庭園での決闘、月夜のトレーラー、拳法の住み込み修行、生き埋めからの蘇り、リゾートハウスでの復讐劇のコンプリート……そんな中で音楽との融合を考えると、Vol.1でのエピソードに痺れる場面があった。

──沖縄のシーン。寿司屋に入った主人公は観光客を装って他愛のない会話をした後、店の主人である服部半蔵(千葉真一)に復讐のための刀を屋根裏部屋で依頼する。店のカウンターで見せていたユマ・サーマンと千葉真一の軽さ。そこからこの場面における重苦しい緊張感への流れにも魅了される。そして静かに流れてくるのがゲオルゲ・ザンフィルの「The Lonely Shepherd」で、パンフルートの孤高の旋律がまさに復讐を誓った者の心情そのものなのだ。

この曲がVol.1のエンディング(飛行機で復讐リストを書くシーン)に使われいることからも、タランティーノの強い拘りが見受けられる。このザンフィルのパンフルートを耳にして、セルジオ・レオーネ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を思い出す人もいるかもしれない。なぜならこの作品でもザンフィルの音色が忘れられない場面で奏でられている。

1984年公開のこの映画史上に残る名作中の名作を、気鋭の映画作家はきっと心に深く刻んでいたに違いない。そんなタランティーノは現在、10年後の世界を描くVol.3を構想中だと噂されている。

ザンフィルが流れるシーン


Vol.1エンディングでの復讐リスト作成シーンでも流れる

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『キル・ビル Vol.1』


*日本公開時のチラシ
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*このコラムは2014年8月13日に公開されたものに一部加筆しました。

*参考・引用/『キル・ビル』DVD特典映像、パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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