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主人公のナミとして吐きすてるように歌ったという梶芽衣子の「怨み節」~〈吐きすて〉の歌の系譜⑨

2025.03.23

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女優の梶芽衣子が歌って代表曲となった「怨み節」は、1972年に製作された映画『女囚701号 さそり』の劇中歌としてつくられた。しかし、8月25日に映画が公開されたときには、まだレコード化されていなかった。

第1作の『女囚701号 さそり』に出演の依頼があった時、梶芽衣子は「女囚なんか嫌よ」と台本を返したという。だが、プロデューサーから読むだけ読んでほしいといわれて、気乗りしないまま読んでみることにした。

読んでみたら想像通り、タメ口羅列の女囚同士の喧嘩だらけで、安っぽいエログロ作品になりそうな内容でした。これはとても自分にはできない。けれど原作の漫画も読んでみて「アッ!」と気づいたことがありました。
ヒロインがまったく言葉を発しなかったら面白くなるんじゃないか、と。刑務所に新入りが入ってくれば、イジメやリンチがあるのが当たり前。そこで面と向かって相手にせずに無言で通したら凄みが出ます。そうやって無視し続ければやがて相手はあきらめる。それで勝負してやろうと思いました。



そのとき、梶芽衣子は、1970年から71年にかけて出演した日活映画のシリーズ作品「野良猫ロック」シリーズの集大成になると思ったという。

「野良猫ロック」シリーズは、ごく一部の若者たちにだけ高い評価を得たカルトムービーだが、日本での公開から30年後に、アメリカでもDVDが発売されて評判になった。

高校生になってすぐにモデルにスカウトされた太田雅子は、本名で日活映画からデビューする3年前に、NHKテレビの生放送ドラマ『若い季節』(1961年) にレギュラーとして出演していたことがある。

物語の舞台となるプランタン化粧品の会社の看板を映すシーンは、若い女性たちの足下からカメラがパンしていくのだが、チャームガールと呼ばれた3人のうちの1人として脚が映っていたのだ。

当時は生放送でしたから、いつくるかわからないチャームガールのシーンために、収録が始まったらずっとスタジオになければなりません。どこで待っていればいいのかわからず、隅っこの方で小さくなっていた私たちに「そんなところにないでこっちいらっしゃい」と優しく声をかけたて下さった方もがいました。渥美清さんです。そして「ね、大変だろう? みんな俳優になるの? やめな。とっととお嫁にいっちまいな」なんて、冗談言って私たちをほぐしてくださるのです。その温かい心遣いが嬉しくて、ホッとしたのをよく覚えています。


1965年に日活に入社してからは主演作もあったが、それほど目立たずに脇にまわることが多かった。会社がつくりだすありきたりの青春スター像にがは嫌だったので、どうすれば個性的な印象を与えられるかを自分で考えて工夫していた。

そして”野良猫ロック”シリーズの第2作『野良猫ロック・セックスハンター』で主演に抜擢され、そこからひときわ存在感を放って注目を集め始めたのである。

映画が完成した後で、なぜ自分が選ばれたのかと訊くと、監督の長谷部安春は「笑顔がまったくないから」と答えたという。


”野良猫ロック”シリーズが終了して1年以上を経て公開された『女囚701号 さそり』は、笑顔ばかりか台詞もほとんどない暗い作品となった。

ところが事前の予想を裏切る大ヒット作になって、全国の映画館から梶芽衣子のもとにまでお礼の電話が来るほどだった。

そのためすぐに2作目を製作し、年末から正月映画として公開することが発表された。そのときに、どうして劇中歌の『怨み節』がレコードになってないのかという声が高まってきた。

『怨み節』が誕生したのは撮影が終わったあとで、当初から予定されていたのではなかった。だが、その映画が監督デビュー作だった伊藤俊也の強い要望があって、監督が自ら作詞した曲を歌うことを承諾したのだった。

最初は歌なんか歌う心境の役ではないと思ったものでした。どうすりゃいいの? というのが正直な気持ち。そんな私に監督が求めたのは”三上寛さんのような”荒々しい歌い方でした。とてもじゃないけどそんなふうには歌えない。私がそう言うと、作曲の菊池俊輔さんが「梶さんの歌いたいように歌えばいい」とおっしゃってくださいました。


しかし歌詞を読んでみると、内容が自分の中にどんどん入ってきたという。そこで自分が演じた松島ナミという人物の気持ちで歌いたいと思い、主人公のナミとして吐き捨てるように歌ったら、監督からOKが出たのだった。


映画のなかでほとんどしゃべらない主人公だったからこそ、その心情が託された歌声にはリアリティがあり、映画を観た観客に強く訴えかけたのだろう。

2本目の『女囚さそり 第41雑居房』もまたヒットし、当然のように『怨み節』のレコードも大ヒットになった。

しかしそこからは予想外の展開で、明けても暮れてもレコーディングの日々が訪れる。それは梶芽衣子が知らないところでレコード会社との契約があって、1年に60曲も歌わねばならなかったからだった。

そのために60曲をレコーディングし終えた時に、「もういい!」と歌を一旦はやめることにした。芸能界に入ったのはあくまでも役者としてであり、それだけに専念しようと思ったのである。


〈参考文献〉梶芽衣子の言葉は、梶芽衣子・著 清水 まり・構成「真実」(文藝春秋)からの引用です。


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