1960年代の半ば過ぎから後期にかけて、日本でもフォーク・ムーブメントという現象が起こった。
ギターを弾いていくつかのコードさえ押さえられれば、自分の言葉を綴った歌という形にして、社会に対する疑問や怒りを意思表示して伝えることを知った若者たちが、日本中のあちらこちらでギターを抱えて歌い始めたのだ。
当時は「プロテスト・フォーク」とも呼ばれたが、アメリカのピート・シーガーやボブ・ディランに代表される「フォーク歌手」の影響を強く受けていた。
60年代後半からに70年代にかけて登場した関西フォークの高石ともや、中川五郎、岡林信康、高田渡などの特徴は、「自作自演」であること以外に、自己の内面を見つめる視点を持っているシンガーであり、歌詞が社会に訴えかけるメッセージ性を内包しているところだった。
同志社大学の大学生だった岡林信康が歌う「山谷ブルース」は、同世代の若者以外にも広く伝わる心情が歌われていたのでヒットした。
山谷とは東京都台東区と荒川区にある寄せ場、日雇い労働者が多数集まる場所のことだが、江戸時代に幕府が各所に設けた無宿者・犯罪者の収容所、人足寄場が語源となっている。
1968年9月にビクターから発売された岡林信康のシングル盤を、湘南海岸の片瀬江ノ島駅のそばにある一流の料亭「角若松」に就職して間もない、板前見習いの若者が耳にした。
師走の寒さの中、その若者はサラシの腹巻きを見せるために、わざと白衣の前をはだけて、素足に下駄、くわえタバコで歩いていた。たまたま住み込んでいた寮の隣にあるレコード店から、耳に飛び込んできたのが「山谷ブルース」だった。
山谷のドヤ街に住む日雇い労務者たちの歌。
仕事がつらいことも焼酎をあおることも珍しくはなかった。
だが『仕事』『焼酎』というその言葉。その使い古された日頃の『言葉』が唄になっている。
唄にしてもいいのだという驚きは衝撃だった。(三上寛著「三上寛 怨歌(フォーク)に生きる」彩流社)
青森県北津軽郡小泊村に生まれ育った三上寛は、高校時代に一家の大黒柱だった父を亡くし、板前見習いとしてその店で9月から働き始めたばかりだった。
寮の部屋に先輩たちと3人で住み、1万5000円の給料の半分を実家に送る生活を送っていた。まったく意にそぐわない仕事だったが、故郷の母と妹のために我慢して働くしかなかった。
激しさを増していたベトナム反戦運動や高校・大学の学園紛争が気になっても、横目で見ているしか術はないと思っていた。しかし、「山谷ブルース」が人生を変える行動に走らせる。
「世の中に何かが起きている」
そう思った三上寛は東京に行くことを決意した。
地方から出てきた見習いを親切にしてくれる先輩たちの引き止めを振りきって、1969年の1月31日に東京へ出ると、翌日から新聞販売店に住み込んだ。
それから詩を書き始めて1年、渋谷のライブスペース「ステーション70」に出演するようになり、三上寛はフォークシンガーの道を歩むことになった。
1971年4月にはコロムビア・レコードからデビュー・アルバム『三上寛の世界』が発売された。ところがリリース直後、それはレコード店から回収されてしまう。連続射殺魔と名付けられた永山則夫に捧げた「ピストル魔の少年」が問題となったのだ。
やがて三上寛も所属した事務所の社内事情によるゴタゴタに巻き込まれて、6月にはそこを飛び出してしまう。仕事をなくした三上寛は、知り合いだった新宿ゴールデン街のバー『唯尼庵』のママ、キヨさんの計らいで店でバイト生活を送っていた。
そんな夏のある日、岡林信康が店に現れる。岡林信康はその日、関西フォークの東京事務所で話題になっていたレコード、『三上寛の世界』を聞いてきたところだった。
カウンターに座るなり「ミカミってのがサァ」と言い始め、笑いながらキヨが「こいつがミカミだよ」と言った時、岡林は驚きのあまりに椅子から転げ落ちていた。
三上寛が岡林信康と同じステージに立ったのは、1971年8月7日から9日にかけて岐阜県の椛の湖(はなのこ)の湖畔で開催された、第3回全日本フォークジャンボリーだった。
<続きはこちらです>
・無名だった三上寛が大観衆の喝采を浴びた「夢は夜ひらく」~第3回全日本フォークジャンボリー

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