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細野晴臣の言葉から生まれた星野源の日本語ポップス 〜過去と未来を繋いだアルバム『Pop Virus』〜

2023.12.30

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2019年のCDショップ大賞を『Pop Virus』で受賞した星野源は、2016年の『YELLOW DANCER』に続く2度目の栄冠となった。

このアルバムは2018年12月にリリースされて4週連続チャートの1位を記録し、まさに2018年を代表する音楽の一つになった。
『Pop Virus』には新しいポップスを作り出そうとする星野の挑戦と音楽への愛情、そして日本語のポップミュージックを作り上げた先駆者たちへの敬意が込められている。

星野は2015年にアルバム『YELLOW DANCER』で自らのルーツであるブラックミュージックのエッセンスを、日本語のポップスとして表現して高い評価を得た。
ここで多くのリスナーに受け入れられたことで、星野はさらに海外の音楽を取り入れながらも、より日本人の心に響く音を追求し始めている。

そんな時に星野が参照にしたのが、プロとして半世紀にわたってキャリアを重ねている細野晴臣の音楽だ。

海外のリズムやグルーヴを取り入れた日本語ポップスの先駆者である細野は、星野にとって目指すべき存在であった。
とりわけ細野晴臣&イエロー・マジック・バンドのアルバム『はらいそ』に収録された、沖縄民謡の「安里屋ユンタ」がそうだったように、日本の伝統的なメロディを洗練されたリズムで、ポップスに昇華していく感覚は大きなヒントになる。


次なる音楽制作に取りかかっていた2016年の5月、彼は細野が行った横浜中華街のライヴにゲストとして参加している。
そこでジェームス・ブラウンやマーティン・デニーといった、ファンクやエキゾチック・ミュージックの名曲をともに演奏したという。

「まさか細野さんとファンクを一緒に演奏できると思っていなくて、それはもう最高に楽しくて。で、演奏が終わった時に細野さんに『未来をよろしく』って言われたんですよ」


「その言葉の重みとかうれしさとかいろいろあって、胸がいっぱいで一瞬呆然としてしまったんですよね」
(Real Sound 2016年10月7日公開 インタビューより)

細野からかけられた言葉は、「Continue」という楽曲に結実していく。
星野は「継承」ということを歌った言葉と、和の情緒とモータウンサウンドが混ざり合ったアレンジで、日本語ポップスの先人たちの意匠が未来へ受け継がれていくことを表現した。

この楽曲を起点にして、星野はアルバムの構想を広げていく。
そうして生まれたのは、彼のルーツである歌謡曲や日本語ロックにモータウン、ヒップホップやダンスミュージックまでを取り入れたアルバム『Pop Virus』だ。

1曲目の「Pop Virus」では若手トラックメーカーSTUTSが作り出したヒップホップのビートの上で、ポップミュージックへの敬意と愛を歌う。


山下達郎をゲストに迎えてゴスペルやソウルのサウンドを構築した「Dead Leaf」や、エレクトロビートを基調にメロディを響かせた「サピエンス」と、どれも個性的なアレンジでありながら、日本語の響きや歌謡曲的なメロディが見事に合わさった楽曲たちが並ぶ。
星野がこのアルバムを通して試みたことは、日本語ポップスの次世代への継承であった。

「僕が好きなポップというものって実はすごく昔からあって、いわゆる文明が生まれたくらいの頃からあったんじゃないかって思えてきて。『なんかいいよね』とか『あいつの歌って元気になるよね』とか『切なくてぐっときちゃうよね』とか、その感覚や感動を覚えている人がまたなにかを受け継がれていく連鎖によって音楽もその他のカルチャーも成長していったと思うんです」


「実際に僕は僕が生まれる前の音楽に励まされているわけで、それは音楽の素晴らしい力で、それこそが音楽の面白さだと思うんです」
(『Pop Virus』ライナーノーツより)

アルバムの最後に収録された、「Hello Song」には、そうした想いが込められていた。
星野が敬愛するクレイジー・キャッツを彷彿とさせる演奏に合わせて、ポップミュージックが次世代に受け継がれていくことへの希望が歌われる。


彼は日本語ポップスの先駆者たちのように、日本語と海外音楽を混ぜ合わせ新たな音楽を生み出した。
その情熱も、この作品を聴いた次の世代へとまた引き継がれていくのである。

星野源『POP VIRUS』
ビクターエンタテインメント




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