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喜納昌吉の「ハイサイおじさん」に驚かされ、「細野さんはトロピカル・ダンディーだよ」と久保田麻琴に言われて気づいた自分の本質

2018.12.21

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1975年2月8日、細野晴臣は中断していた2枚目のソロ・アルバムのレコーディングを、東京・溜池のクラウン・スタジオで再び始めることになった。

このアルバムは前年の11月25日に作り始めていたのだが、途中から悩んで中断せざるを得なくなってしまった。
細野は年を越してもずっと悶々としていたという。
そんなところに訪ねて来たのが久保田麻琴で、沖縄みやげに買ってきてくれた1枚のレコード「ハイサイおじさん」が、レコーディングを再開するきっかけになった。



イントロダクションは沖縄を旅行中だった久保田から送られてきた1枚の絵葉書で、そこには「興奮を抑えきれない音楽と出会った」と書いてあった。
久保田は西表島で観光用のマイクロバスに揺られていた。
そこでは沖縄民謡がBGMに流れていたのだが、途中で不思議な音楽に出会うことになったのだ。

「喜納昌永さん-昌吉のお父さんですね、その昌永さんの民謡のカセットが、たまたま、かかっていたんです。
マルフク・レコードという、地元の民謡・古典音楽のレーベルのカセットです。
そのアルバムに、息子の昌吉が二曲だけ入れていて、これを聴いて驚いた。
急にドラムもエレキも入って来たので、驚いてバスの運転手さんに、『これなんですか』って聞いたら『民謡だ』。
『ええ? 民謡じゃないだろ』(笑)。
他の曲は三線でチントンやっているのに。
チャンプルーズという昌吉のバンドの演奏だったわけです」


「ハイサイおじさん」を聴いて驚いた久保田は帰京する前に那覇のマルフク・レコードに行って、細野や友人のへのお土産にそれを買った。


細野はレコードを一聴して、なにかゾクゾクしてくるものを感じた。
そしてこんな音楽が日本にあるということに気付かされて、最高に楽しい気分になったという。

当時の日本では録れない、ジャマイカのレコーディングのような音でした。
スカの古いレコードみたいな音がしてたんです。
音もそれに匹敵するインパクトがあったんで、びっくりした。


当時からよく聴いていたニューオーリンズの音楽、たとえばドクター・ジョンの「ガンボ(Gumbo)」などと「ハイサイおじさん」は、なんの違和感もなく繋がっていた。
そこからニューオーリンズにとってのジャマイカのように、日本における沖縄という構図が細野には見えてきたのだった。

細野は久保田と二人で「次はチャンプルーだ!」と盛り上がった。
まだ沖縄料理を一口も食べたことがないまま、細野は面白い音楽はいずれも異文化の混合であり、料理で言えばごった煮=チャンプルーだとわかったという。

奇しくも沖縄のゴッタ煮料理のチャンプルーを自分のグループ名にしていたのが、沖縄民謡界のの異端児だった「ハイサイおじさん」の喜納昌吉であった。
そうしたことがニューオリンズのガンボ(ごった煮)や、ニューヨーク・ラテンのサルサ(ソースの意)ともつながってきた。

細野と久保田がハイになっていったのは、香りと音楽は記憶を甦らせてくれるという話でも意見が一致したからだった。
料理における味つけや匂いというものが、音楽とも大いに関わりのあると気づかせられた。

その後もほんとうはどんな音楽が好きなのかというテーマで話しているうちに、ブラジルのサンバ歌手でハリウッド・スターになったカルメン・ミランダを筆頭に、マーティン・デニーやレス・バクスターのようなエキゾチック・サウンド、アメリカにとっての楽園イメージであるラテン・リズムや南国ムードが浮かんできた。


そこで久保田が決定的なフレーズを一言、口したのだと細野が語っている。

彼が、『細野さんは、トロピカル・ダンディーだよ』って言ったんだ。
人にいわれてはじめて気がついて、そうか、好きなことをやればいいんだと思って。


久保田と「トロピカル・ダンディー」の話をした翌日、細野はヤマハ音楽振興会の『ライトミュージック』編集部を訪ねる用事があった。
そこでいきなり、当時はまだジャーナリストだったS-KEN(田中唯士)から、『細野さん、チャイニーズ・エレガンスっていいですね』と言われたという。
そしてエキゾティック・サウンドや民族音楽のレコード、テープなどを聴かせてくれたのだ。

トロピカルとチャイニーズとエレガンスという言葉が、はじめてコンセプトになったんですね。


期せずして久保田とS-KENにから手がかりをもらった細野は、スタジオでの作業を再開していった。
テーマ は「エキゾティック」と「トロピカル」だ。

「その前ずっと、僕は神経症の発作みたいなものにさいなまれていたんだけど、それを克服する方法が見つかったんです、そのころ。ものすごい解放感。目の前がワーッとひらけちゃった」


再開から2ヶ月後に完成したソロ・アルバムは、『トロピカル・ダンディ』と名付けられて6月25日に発売された。



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