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松本隆と大滝詠一の才能が出会いがしらに衝突して生まれた「春よ来い」~〈吐きすて〉の歌の系譜①

2019.12.30

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1973年9月21日、東京・文京公会堂で開かれたはっぴいえんどの解散コンサートが終わって、ライブ音源をレコードにするためにミックスしていたスタジオで、アンコールに登場したバンドを代表して大滝詠一が客席に向かって放った言葉を聞いた時の反応が面白い。

「もうこの4人でないと出来ない曲を、これから2曲続けてやります」


松本隆はそれを聞いて一緒にいた鈴木茂に向かって、思わず「いいね」と呟いたという。
鈴木茂もまた、「うん、いいね」とうなずいた。

完成したアルバムのライナーノーツには松本隆が自ら、「はやすぎた回想録」を書いている。

正直に言って、ぼくら4人の誰もが、あの晩のコンサートに乗り気じゃなかった。
それは別れてから辿り始めた個々の道を歩くのにせいいっぱいで、一年もたたないうちにまた同じステージの上に立って何をしたらいいのかもわからなかったからだ。
ぼくもこの1年間というもの録音スタジオにはいりっきりのような気がしていたし、それは細野氏にしても同じ事だった。


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アンコールの1曲目は「かくれんぼ」、最後が「春よ来い」だった。
どちらも作詞が松本隆、作・編曲と歌が大滝詠一による作品である。

大滝詠一が暮らしていた下宿に松本隆が遊びに行ったとき、ひょんなことで「春よ来い」が生まれた。

はじめて大瀧氏の狭い下宿に遊びに行った晩、ぼくはゴロッと寝そべって、彼のノートにいたずら書きをしたのである。
ついさっき読み終えたばかりの永島慎二の漫画が頭にこびりついていたからかもしれない。
そのいたずら書きに大瀧氏はギターの音を合わせたのである。
そんないきさつを経て出来た曲だったと思う。


大滝詠一がギターを手にしてメロディをつけると、いたずら書きされた言葉が歌詞になった。
才能と才能が出会い頭に衝突して、新しい歌が誕生したのである。
そこで触媒の役割を果たしたのは、漫画家・永島慎二の「春」という作品だった。

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「春」は『漫画家残酷物語』という連作のなかにあるのだが、漫画家を志して家を出てきた主人公が一人寂しく正月を迎える話だ。

日本の新しくロックを作るためにバンドを組もうとしていた若者たちの思いが、斬新なデザイン・センスと文学的なストーリーを持つ漫画にインスパイアされて、「♫ 春よ来い 春よ来い」という言葉とメロディに昇華した。

 「春よ来い」
 作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一

 家さえ飛び出なけれぱ 今頃皆揃って
 お目出度うが言えたのに
 何処で間違えたのか
 だけど全てを賭けた 今は唯やってみよう
 春が訪れるまで 今は遠くないはず
 春よ来い
 春よ来い
 春よ来い


松本隆は解散コンサートで演奏した「春よ来い」について、ライナーノーツのなかでこうも述べていた。

あの日の「春よこい」は今までいちばんいい出来だったと思う。
おそらくもうこれっきりで誰も歌わないだろうけど、あの歌は〈はっぴいえんど〉のなかでは、異端の感じを持っているのに、最後にはいつもあの曲にもたれかかってしまった。
岡本おさみ氏がぼくに言った初期の〈吐きすて〉の歌、「春よ来い」。
思えばぼくらの作った歌の中で一番素朴だったのだろう。


ここに出てくる〈吐きすて〉の歌という言い回しは、詩人の岡本おさみの命名らしいが言い得て妙だ。

はっぴいえんどのメンバーはその頃、どんなふうに歌をつくって、どう音楽で表現するのかについて、いつも真剣に話し合っていた。
そしてアメリカナイズされた音に日本語の歌詞を乗せること、それがバンドの指標としてまとまった。
ファースト・アルバム『はっぴいえんど』はそこから誕生したのだ。

それからの3年間がまたたくまに過ぎて、ひとつの世代の原風景を描いたはっぴいえんどは、使命を果たしたかのようにシーンから退場した。

松本隆のライナーノーツはこう締めくくられている。

あの晩はとても素敵だったと思う。ぼくらはすごく楽しく演れたし、それぞれが自らの青春らしきものに終止符を打つような淋しさを感じていたにちがいない。
〈はっぴいえんど〉よさようなら!


音楽的な完成度よりも表現の源にある衝動が優先されるとき、啖呵を切るような〈吐きすて〉の歌が生まれてくるのかもしれない。



「春よ来い」



(注)本コラムは2016年9月16日に公開されました。
文中の言葉はすべてアルバム『ライブ!!はっぴいえんど』のライナーノーツ、松本隆「はやすぎた回想録」からの引用です。


「かくれんぼ~『ライブ!!はっぴいえんど』より」



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