CM音楽のプロデューサーとして、1970年代の音楽シーンに新風を吹き込んだ大森昭男は、日本におけるコマーシャルソングの祖といわれる三木鶏郎の門下生で、1960年に作家集団の「冗談工房」に入社して音楽制作の道を歩み始めた。
作曲家の桜井順とともに1965年にブレーンJACKを設立した大森は、斬新な映像感覚で”CM界のクロサワ”とも呼ばれた杉山登志と組んで活躍し、世界的な注目を集めた資生堂のコマーシャルを作って注目を集めた。
そして1972年に自らの事務所ON・アソシエイツを発足させてまもなく、はっぴいえんどの大瀧詠一に音楽を依頼している。
はっぴいえんどを聴いた時、すぐに、こういう新しい人たちと仕事がしたいと思いました色々と感じ入る曲があったんですけど、三ツ矢サイダーの仕事に繋がったのは「ウララカ」です。企画をもらった時、直感的にその場でこの大滝さんにお願いしようと思ったんですね」
1971年11月20日にセカンド・アルバムの「風街ろまん」を出した後、はっぴいえんどはメンバーそれぞれが新たなる地平目指して活動の幅を広げていた。
細野晴臣と鈴木茂はスタジオで、ミュージシャンとしての仕事が多くなっていた。72年の春からソロ・アルバムのレコーディングを始めていた大瀧詠一は、6月にソロ・シングル「空飛ぶくじら/五月雨」を出している。
大森の耳にも、どうやら近いうちに解散するらしいという話も漏れ伝わっていたはっぴいえんどは、10月に3枚目のアルバムのレコーディングのために渡米した。だが結局のところ、ラスト・アルバムの『HAPPY END』の発売を待たずして、12月いっぱいをもって解散する道を選ぶことになった。
そして解散直前の11月25日、大瀧詠一はソロアルバム「大瀧詠一」を発表する。大森の心の琴線に触れた「ウララカ」は、A面の最後に収録されていた。
大瀧詠一
「コマーシャルソングをやりませんか」と大森が電話で大瀧詠一にアプローチしたのは、新年が開けて間もなくのことだったという。
朝11時ぐらいだったと思います。コマーシャルソングをお願いしたいんですけど、って大瀧さんの自宅に電話をしましたね。『何でしょう』『三ツ矢サイダーです』。ちょっと間があって『分かりました』と。『で、詞はどなたが』『鶏郎門下の伊藤アキラさんです』
伊藤アキラもやはり三木鶏郎の門下生で、「オー・モーレツ!」(丸善石油、現・コスモ石油)や「この木なんの木」(日立の樹)、「やめられない とまらない」(カルビー かっぱえびせん)などのヒット作でCM業界ではつとに知られる存在であり、歌謡曲の作詞家としても活躍していた。
若者たちが自作自演で作り始めていたフォークソングについて、伊藤は”生活歌”という意味で師匠の三木鶏郎が作っていたコマーシャルソングと同じだと捉えていた。はっぴいえんどの大瀧詠一が作曲して歌うCMだと電話で伝えられた時も、大森らしい新しい試みなのだろうと思ったという。
ただし、その時点ではどこの誰なのかまでは、よくはわからなかったらしい。はっぴいえんどの知名度は、まだその程度だったのだ。
大森から二回目の電話を受けた伊藤は、大瀧詠一のほうからされた歌詞の注文を伝えられた。
始まりの音は母音の“あ”で始めてくれ、ということでしたね。三音四音の組み合わせで、最初は“あ”。自分でも歌う人ですからイメージがあったんでしょうけど、かなり厳しい注文でした(笑)
だが一流の職人だという自負を持っていた伊藤アキラは、見事に大瀧詠一が出してきた条件を満たす歌詞を書いた。
この「サイダー’73」はコマーシャルソングの歴史に残る名作となり、翌年の「サイダー’74」も大好評だった。そのために作詞・伊藤アキラ、作曲・編曲・歌が大瀧詠一のチーム(「サイダー’76」のみ山下達郎)で、5年間も新しいヴァージョンが次々に作られた。
大森は大瀧詠一や山下達郎という新しい才能を見出して成功したのに続いて、坂本龍一、鈴木慶一、大貫妙子、井上鑑などとともに時代の先端を行くセンスやサウンドを取り入れたCM音楽で、TVコマーシャルの世界に新時代をもたらすことになる。
やがて 1976年の「オレンジ村から春へ」(りりぃ)を皮切りに、77年「サクセス」(ダウン・タウン・ブギウギ・バンド)、78年「時間よ止まれ」(矢沢永吉)、79年「君の瞳は10000ボルト」(堀内孝雄)と、資生堂によるタイアップ・ソングをヒットさせて、それに対抗する化粧品メーカーのカネボウやコーセーを巻き込むかたちで、イメージソングの時代が始まっていった。
(注)本コラムは2014年9月26日に公開されました。なお文中の引用元は田家秀樹著「みんなCM音楽を歌っていた―大森昭男ともうひとつのJ‐POP」(スタジオジブリ刊)です。


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▼日時/2025年6月7日(土曜) 開場17時/開演18時
▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)
▼出演
浜田真理子 with Marino(サックス)
畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
奇妙礼太郎 with 近藤康平(ライブペインティング)
タブレット純(司会と歌)
佐藤利明(司会と構成)
▼「チケットぴあ」にて4月5日(土曜)午前10時より販売開始 *先着順・なくなり次第終了
SS席 9,500円 (1・2階最前列)
S席 8,000円
A席 6,500円
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